日本の相続㉙ 特別縁故者の財産分与

 

配偶者や子、親、兄弟姉妹などの法定相続人がいないまま死亡した人の遺産は、最終的に国庫に帰属します。(民法959条) しかし、故人と生計を同じくしていた者や療養看護に努めた者、その他特別の縁故のあった者に遺産を引き継がせることが、故人に対するその人の貢献に報いることであり、故人の気持ちにも反しないと認められる場合は、その人へ遺産の全部または一部の分与を認める制度があります。

 

それはまず、国によって任命された相続財産管理人が相続人の有無を捜索確認し、故人の債務の弁済など、遺産に関する必要な処分をすべて済ませます。その後、家庭裁判所が、遺産分与の申立人に対し申し立ての理由を具体的証拠などによって厳しく審理した上で、特別縁故者として認定の審判が下れば、遺産が分与されます。特別縁故者の財産分与の申立ては、相続人捜索の公告期間の満了後3カ月以内に申請しなければ無効になります。家庭裁判所の調査官の面接その他の調査を経て、家庭裁判所から特別縁故者であることが認められなければなりません。

 

借地人に対する地主、会社の使用人に対する社長、実の親子や夫婦並みの隣近所の住人など、精神的、経済的に緊密な関係にある者が、広く特別縁故者にあたると解されます。(795)

日本の相続税㉘  寄与分制度

 

同じ順位の相続人が遺産を均等に相続することが必ずしも妥当とは言えないケースがあります。相続人の中に、被相続人の財産の増加や維持に特別の寄与をした人がある場合は、遺産の分配にあたり、寄与分として別枠で遺産を相続できるようにするのが「寄与分制度」です。

 

例えば、長男は高校卒業後すぐに父親の後を継いで農業に従事し、それから30年間勤勉に働いてきました。一方次男は、大学を卒業して都会で結婚し、会社勤めをしています。年に一度手土産を持って孫の顔を見せに帰るだけです。父親が亡くなり、遺された財産は1億円で、そのほとんどが田畑などの農業用財産です。父親が財産を遺せたのも、要は長男が一生懸命に農業をしていたからです。したがって、遺産の名義は父親であっても、その中には相当程度、長男の労働による寄与分も含まれていると見ることができます。長男の寄与分が仮に4000万円とすると、残りの6000万円を長男と次男で相続分に従って配分することになります。

 

寄与分の金額は原則、相続人同士の協議で決めます。協議がまとまらないときは、家庭裁判所で決めてもらいます。(794)

日本の相続㉗ 遺言の撤回

 

遺言者は、いつでも自由に遺言の全部または一部を撤回(取り消し)することができます。また、遺言を撤回する権利を放棄することはできず、たとえ撤回しない旨を遺言書に記載したり、あるいは利害関係人に約束したりしていても、拘束されることはありません。遺言の撤回を詐欺または脅迫によって妨げた者は、相続欠格者とされ、相続の対象外となります。

 

遺言の撤回は、遺言による方法と行為による方法があります。

 

  • 遺言による方法

・ 前の遺言の全部または一部を撤回する新しい遺言を作成すると、前の遺言は初めからなかったことになります。

・ 前の遺言に反する新しい遺言を作成すると、反する部分については、新しい遺言が優先され、前の遺言は新しい遺言により撤回されたことになります。

 

  • 行為による方法

・ 遺言に反する生前処分(譲渡、寄付、売買など)を行うと、反する部分は撤回されたことになります。

・ 遺言者が故意に遺言書を破棄した場合、遺言内容は撤回されたものとみなされます。遺言者の過失、第三者の行為または不可抗力による破棄は、撤回の効力がありません。

・ 遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄した場合、その遺贈は撤回されたことになります。 (793)

日本の相続㉖相続人の不存在

天涯孤独の人が遺言を残さず死亡し、相続人がいないことがあります。身寄りがない人が亡くなり、自分の死後財産をどうするかという遺言を残していなかった場合、財産は一体誰のものになるのでしょうか。

まず、利害関係人(被相続人と何らかの関係があった人)あるいは検察官の請求により、家庭裁判所が相続財産管理人を選任します。相続財産管理人は、相続財産の管理や負債の清算をして、債権者や受遺者に対して請求催告の公告をします。また、一定公告期間を定めて不明の相続人を捜索し、期間内に相続権利の主張の名乗りがなされなければ、管理人に知れなかった相続人、相続債権者、受遺者は権利を失い、相続人不在が確定します。

次に家庭裁判所が「特別縁故者」からの申し立てを受け付けます。「特別縁故者」とは生計を同じくしていた内縁の妻や事実上の養子、療養看護に努めた親族・知人・看護士などです。内縁の妻は相続できないのが常ですが、相続人がいない場合で「特別縁故者」と認められれば財産の一部または全部が分与されます。

家庭裁判所の審判により相続管理人の報酬が決定され、精算・分与後なお残余財産があれば、国庫に帰属します。(792)

日本の相続㉕ 後妻の連れ子

 

母親が子供を連れて再婚して、再婚相手と長年本当の親子のように接してきたとしても、養子縁組をしていなければ、その子と再婚相手の間には法的な関係はありません。親同士が結婚して配偶者の関係になっても、連れ子との間には血縁関係がなく、養子縁組がない限りは親子ではなく相続権もありません。

連れ子に相続権を生じさせたいと望むなら、後妻の再婚相手と連れ子との間で生前に養子縁組をして、血族関係を作っておくべきです。同様に、先妻の子と後妻との間に養子縁組をしない限り、血族関係は生まれません。従って、後妻が亡くなっても、父の遺産の1/2を引き継いだ後妻の財産の相続権は先妻の子にはなく、連れ子だけが取得することになります。

養子は実子と同じ第一順位の相続人となります。相続分は実子、養子の区別なく均等割りです。ただし、認められる養子の人数には制限があり、実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人です。養父との養子縁組後、実父が生存していれば実父との法律上の親子関係は存続したままであるため、養父との間の相続権を得ると同時に、実父との間の相続権も存続します。(791)

日本の相続㉔  養子縁組の要件

故人の財産を継承する法定相続人は、配偶者と血族に限られます。配偶者とは、婚姻届を提出した法律上の正式な夫または妻のことです。血族とは、血統の続いた親族のことです。血族には、血縁関係のある自然血族と、血縁がある者と同一視される法定血族とがあります。自然血族は、実際に血のつながりのある子や孫、父母、祖父母、   のことです。法定血族は、親子関係にない者が養子縁組という行為によって実際の親子と同じ関係になった養親子のことです。(民法727条)養子縁組後は、養父母と養子の間に真正の相続関係が成立します。

子供の中には、実子と正式に法律上の縁組をした養子が含まれます。養子縁組の要件は、民法に規定されています。まず、当事者間に縁組をする意思の合致があることです。親となる養親は成年に達している必要があります。養子となる者の年齢制限はないため、未成年者でも成人者でもかまいません。ただし、養子は養親よりも年下でなければいけないとされています。また、たとえ年下であっても養親となる者の叔父や叔母などの尊属を養子にすることは禁止されています。尊属以外の親族であれば養子にすることが認められます。例えば、兄が弟を養子にすることもできるのです。(790)

 

日本の相続㉓    遺言指定分割

 

相続人が2人以上いる場合、被相続人は生前に遺言によって法定相続分とは異なる相続割合を指定することができます。指定相続分による遺産分割のことを指定分割といいます。法定相続分は、あくまでも遺言がない場合の補助的な基準であり、故人の意思が尊重されますから、指定分割は法定相続分による分割よりも優先されます。

相続財産のすべてについて相続分を指定することも、一部の相続人の取り分についてだけ指定することもできます。相続分の指定が一部の相続人だけであった場合、他の相続人は残りの財産について法定相続分によって分けることとされています。例えば、妻と子供2人、遺産額1億円と「遺産の4分の3を妻に与える」という遺言を残して夫が死亡したとします。この場合、妻の相続分は7500万円、子供の相続分は残りの2500万円を等分して、それぞれ1250万円になります。

 

相続人の最低限相続を保証する制度である遺留分を侵害する相続分の指定が遺言によってなされた場合、遺言そのものは有効ですが、遺留分権利者は申し立てにより侵害分の取り戻し請求をすることができます。 (789)

日本の相続㉒   遺産分割

相続人が複数いる場合、相続開始時点で各相続人の相続分に応じて遺産を共有していることになります。現金、土地、家屋、預貯金から債務まで共有している財産を、それぞれの相続人の所有物として確定する手続きのことを「遺産分割」といいます。遺産分割の期限の定めはなく、相続税が生じないのであれば遺産分割を確定させなくても問題はありません。「配偶者は法定相続分まで相続しても相続税はかからない」という税額軽減の特例を受けるためには、原則として相続税の申告期限までに遺産分割しなければなりません。相続財産を処分する場合や担保に入れる場合も、遺産分割が必要です。

遺産分割を行うには相続財産を正確に把握し、それぞれの財産の価値を算定しなければなりません。遺言があれば、指定された相続分にしたがって分割(指定分割)し、遺言がなければ日本の法定相続分にしたがった割合で分割するのが原則です。相続人全員の同意があれば、協議によって分割することもできます(協議分割)。相続人の間で遺産分割協議をしても合意が得られなかった場合は、家庭裁判所の調停または審判にしたがって分割します(調停分割・審判分割)。(788)

日本の相続㉑  相続財産

遺産の金額や相続税額を算出するためには、課税対象になる相続財産として何があるか、そしてそれぞれの財産の価格がいくらかを把握しなければなりません。現金・預貯金、土地・建物などの不動産、株券・債券などの有価証券、書画・骨董品、貴金属・宝石類、家具、車などの家庭用財産のほか、貸付金・借地権など債権、ゴルフ会員権・著作権・特許権などの無体財産も相続財産に含まれます。財産とは、金銭に換算していくらになるか見積もることができるすべてのものを指します。金銭に換算できない故人に寄せられた信用、経営者としての地位、職業上の専門知識や技能などは、相続財産として見なされず、相続税は課されません。

日本の居住者が遺産を相続する場合、日本国内にある故人の財産は勿論のこと、海外(米国)にある財産も相続財産に含めて申告する義務があります。米ドルから日本円へ換算する際、被相続人の死亡日の換算レートを使用します。米国でも遺産税が課された場合、二重課税排除の仕組みである外国税額控除が適用されて、日本の相続税と相殺されます。(787)

 

日本の相続⑲ 遺留分の割合

遺留分は、相続人であれば誰にでも与えられるわけではありません。相続人が配偶者、子およびその代襲者、父母(直系尊属)である場合には遺留分がありますが、兄弟姉妹には遺留分がありません。

相続人に保証されている遺留分の割合は、配偶者および子とその代襲者は、相続財産の2分の1、父母(直系尊属)は3分の1と定められています。この割合は法定相続人全体に残される分を示しているので、相続人が複数いる場合は、この遺留分をさらにそれぞれの割合で分けることになります。

相続人が配偶者だけのときは、遺留分は2分の1です。配偶者と子がいるときは2分の1を分け、配偶者4分の1、子4分の1となり、子が複数のときは4分の1を頭割りにします。相続人が子だけのときは、遺留分は2分の1(複数のときは頭割り)です。

相続人が配偶者と直系尊属(父母)のとき、遺留分は配偶者3分の1、直系尊属6分の1です。直系尊属(父母)だけのときは3分の1(複数のときは頭割り)です。相続人が配偶者と兄弟姉妹のときは、遺留分は配偶者2分の1、兄弟姉妹は取り分ゼロとなります。  (786)

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