日本の相続㊷ 相続財産の評価

 

相続税額を計算するには、まず対象となる相続財産にいくらの価値があるかを把握する必要があります。相続財産がすべて金銭なら、財産の価格がいくらか明白ですが、実情は土地や家屋など価格の見積もりが難しい財産もあります。

相続税法は、ごく一部の財産は特別な評価方法により、そのほかの財産は「時価により」決定すると定め、個々の財産の時価を公平に算定する具体的な評価基準である「財産評価基本通達」を設けています。遺産分割では相続開始時点の「相場」を基準に時価評価しますが、相続税の申告に用いる評価額はでは国税庁の基本通達に従って時価評価します。したがって、遺産分割と相続税計算の財産評価は、異なる金額になることもあります。

国外財産を相続した場合、課税時期現在の売買実例価格等を参考にして評価します。外国の土地の評価は、その国における相続税の計算の基礎となった土地の価格で、鑑定評価に基づいて合理的に算定されたものでなければなりません。相続税の申告で最も重要である相続財産の評価は、非常に厄介であり、かなりの専門知識が要求とされます。(788)

日本の相続 ㊶外国の生命保険

50%課税の取り扱いが異なります。免許を受けた保険契約の場合、被保険者、保険料負担者、保険金受取人が誰であるかによって、適用される適用される税金の種類が、相続税、一時所得に対する所得税、あるいは贈与税のいずれかになります。免許を受けていない外国生命保険会社と締結した生命保険契約の場合、生命保険金は受取人の一時所得として所得税の課税を受けますが、相続税法上の生命保険としての所得税の課税を受けますが、相続税法上の生命保険としての取り扱いを受けず、相続税の対象外となります。(所得税法34①、所得税基本通達34-1(4))。

受取人が日本の居住者である場合、外国生命保険の死亡給付金は受取人の「一時所得」となり、所得税と住民税が課されます。一時所得は50%部分だけが課税対象になるため、所得税の実効税率は25%以下となります。

受取人が海外在住者(例えば米国に居住する永住権保持者)であり、日本の非居住者である場合は、日本国外の保険会社から支払われる生命保険金は、外国源泉所得であるため日本の所得税および住民税の課税対象外となります。(787)

日本の相続㊵生命保険金の評価

 

生命保険契約は、契約者(多くの場合保険料の負担者)、被保険者(生死が問題になる人)、受取人(保険金を受け取る人)の三者で形成されます。通常、契約者と被保険者が同一人で被相続人がなり、受取人は相続人というケースが多くあります。

生命保険が見なし相続財産とされて相続税の対象となる場合、生命保険金の金額は、法定相続人一人について500万円が非課税となります。例えば、配偶者と子供3人が遺された場合、法定相続人は4人ですから2000万円までの生命保険金は非課税となります。生命保険金の評価額は、額面から2000万円分を減額した金額となります。相続放棄をした法定相続人がいる場合は、その分も頭数に加えて非課税額を計算します。生命保険金の評価額は、額面から2000万円分を減額した金額となります。

相続人が相続または遺贈によって生命保険金を取得した場合は非課税額が適用されますが、相続人以外の人が遺贈として受け取る生命保険金には非課税額は認められません。相続人の中に実子と養子がいると養子は1人まで認められ、実子がいなければ養子は2人まで認められるという具合に、非課税額の計算上、養子の数に制限が加えられます。(786)

日本の相続㊴ 相続財産にならない生命保険金

被相続人(故人)が保険金受取人として指定されている場合と、妻や子などの相続人が保険金受取人に指定されている場合とでは、保険金請求権の取り扱いが異なります。被相続人が保険金受取人に指定されていれば、保険金請求権は被相続人の権利ですから、これも遺産であり遺産分割の対象となります。相続人がこの生命保険を受け取ると相続放棄はできなくなります。

父が多額の負債を抱えて死亡し、保険金受取人に指定された相続人(子)が生命保険金を受け取った場合も、相続放棄ができないのではないかと疑問が生じます。保険金請求権が相続財産に含まれるかどうかという問題ですが、それは保険金受取人の形態によって異なります。保険金受取人が特定の相続人(妻や子など)に指定されている場合は、生命保険契約の効果として保険金受取人が保険金請求権を取得するので相続財産には含まれず、相続放棄した相続人でも、この保険金請求権を取得します。例えば、1億円の負債を抱えて死亡した父が、他に財産はなく、子に1億円の生命保険契約をしていた場合、子は相続を放棄して1億円の債務を継承せず、1億円の生命保険だけを受け取ることが可能となり、債権者にとっては甚だ面白くない結果となります。(785)

日本の相続㊲  生命保険金と相続税

 

死亡を原因として支払われる生命保険金は、亡くなった人が生前から所有していた財産(遺産)ではなく、契約上受取人として指定された相続人の固有の財産であり、民法上遺産には含まれません。そのような生命保険金は遺産分割協議の対象にはなりません。また、相続放棄をしても生命保険金を受け取ることができます。ただし、相続税法上は取り扱いが異なります。被相続人が保険料を負担していた契約については相続税の計算上はみなし相続財産とされて、相続税の課税の対象となります。

 

本来は相続財産ではないが、被相続人の死亡を原因として、相続人のもとに入ってきた財産を税法上みなし財産として課税対象とするものに次があります。

  • 死亡保険金(生命保険金・損害保険金)-被相続人が保険料を負担したもの。生命保険金は法定相続人一人につき500万円が非課税となります。
  • 死亡退職金、功労金、弔慰金-死亡後3年以内に支給が確定したもの。法定相続人一人につき500万円が非課税となります。
  • 生命保険契約に関する権利-保険契約者・受取人が死亡して被保険者が生存の場合に継承される権利
  • 個人年金など定期的に現金が給付される定期金の権利
  • 遺言によって受けた利益(借金の免除など)

(783)

日本の相続㉟負担付遺贈

遺言により人に財産を譲ることを遺贈と言います。一般的に遺贈は無償が建前であり、受遺者には代償の支払義務はありません。しかし、遺言者が受遺者に対して代賞の支払い(反対給付)を義務付ける負担付遺贈をすることもできます。遺贈を受けることを承認した受遺者は、反対給付の負担を履行する義務を負います(民法1002条)。

例えば、友人に財産の一部を遺贈する代わりに、遺言者の未成年の息子が大學を卒業するまで学費の支払いの面倒を見てもらいたいという反対給付の条件を付けたとします。友人が遺贈を受け取った場合には、遺族の学費の面倒を見る義務を負います。ただし、受遺者の負担は、遺贈された財産の価格を超えない範囲内です。遺増を受け取りながら負担を履行しない(学費を払わない)場合、相続人または遺言執行者は相当の期間を定めて履行を催告でき、履行がないときは遺言の取消しを家庭裁判所に請求できます。

受遺者が遺贈を放棄した場合、負担履行義務がないことは言うまでもありません。その場合、負担の利益を受けるべき者(息子)は自ら受益者になることができます。ただし、遺言者が遺言で別段の意思表示をしたときはそれに従わなければなりません。(781)

  日本の相続㉝養子縁組によって生じる問題

 

家業を営んでいる夫婦に、娘が一人だけいました。跡継ぎになる息子がいなかったため、一人娘と結婚した婿を養子にして家業を継いでもらうことにしました。養親子ですから安泰と思っていました。ところが突然、養父が亡くなり相続が発生しました。

相続人は、妻(母)と娘、そして婿養子です。特に問題もなく法定割合(養母50%、娘25%、婿養子25%)で財産を分け合いました。しかし、その直後、今度は娘が亡くなりました。娘の遺産(25%)は、子供がいないため配偶者である婿養子が全額受け取りました。婿養子の財産の持分は50%(25%+25%=50%)となりました。

しばらくして、婿養子も亡くなりました。ここで問題になるのが、婿養子の遺産は、誰が相続するかということです。婿養子の配偶者は死亡しており、子供もいません。すると相続するのは親になります。婿養子には実父母と養母がいます。つまり、相続人は、実父母と養母ということになります。

養親は家業や財産を守ってもらえるようにするため、娘の夫を養子にしたのに、他人の家系に財産が渡ってしまいます。養子縁組をした場合、養親と実親両方の相続権を持つことになります。養子縁組では、こういった望んでいなかった思いがけないことが起こる可能性もあるので、気をつける必要があります。(799)

日本の相続㉜  養子縁組の手続  

 

法律上の摘出親子関係を新たに創り出す具体的な手続として、養子縁組届の提出があります。その内容は以下の通りです。

届出地: 養父母または養子の本籍地または所在地の市町村役場

届出人: 養父母および養子(養子が15歳未満のときは法定代理人)

届出用紙: 所定の届出書(養子縁組届) 1通

添付書類: 本籍地以外で届け出るときは、届出人の戸籍謄本1通。成人者の証人2人が必要(署名押印)

その他必要なもの: 未成年者を養子にするときは、家庭裁判所の許可書(ただし、養父母の直系卑族を養子とする場合は許可不要)。印鑑(養子、養父、養母)。届出人の本人確認ができる身分証明書(運転免許書、パスポート、住民基本台帳)

 

養子は、原則、養親の氏(姓)を名乗って、養親の戸籍に入ります。養親が筆頭者でも配偶者でもない場合、養親の新しい戸籍を作ります。養子が既婚である場合、養子夫婦の新しい戸籍を作ります。養子が同籍していない実親

の配偶者を養親とする場合、養子は養親の戸籍に入籍します。既婚者が縁組をする場合、配偶者の同意が必要です。既婚者が未成年者を養子とするには、配偶者と共にしなければなりません。 (798)

 

日本の相続㉛  複数の遺言書

 

遺言者の死亡後、複数の遺言書が見付かり、その内容が抵触する場合、遺言書の優先順序が決められています。新旧の遺言書の内容が重なる場合は、新しい遺言によって古い遺言は取り消されたものと見なされます(民法1023条)。遺言書が何通出てきても、一番最後に作成された遺言書、すなわち日付の新しい遺言書が有効な遺言となります。新旧の遺言書の内容が抵触しない部分については、古い遺言に書かれたことも有効になります。

 

遺言が取り消されたものとして扱われる場合は、次の通りです。

  • 後の遺言によって、前に作成した遺言を撤回する旨の遺言をする。
  • 後の遺言によって、前の遺言内容に反する遺言をする。
  • 遺言をした後に、生前に遺言内容に反する処分行為(遺言の目的物を売却するなど)をする。
  • 遺言者が故意に遺言書を破棄する(破り捨てる、焼却する、塗りつぶす、押印なく訂正する)。
  • 遺言者が遺贈の目的物を破棄する。

 

詐欺または脅迫によって遺言書が作成されたことが遺言者の死亡後に判明した場合は、相続人は、その遺言の取消しを請求することができます。(797)

 

日本の相続㉚ 無効な遺言  

形式や内容が法律的に不備な遺言は、次の通り無効とされます。

  •  遺言能力を欠く者の遺言

満15歳に達しない者の遺言は、当然に無効です。

  •  形式面で不備のある遺言

民法に規定された遺言方式に準じて作られていない場合、無効になります。口頭によるものやテープに収録してあるものは一切法的効力がありません。苦労して書いた遺言も日付や印がないものや、訂正や加除の方法が間違っているものは無効です。

  •  内容が実行不可能や特定不可能な遺言

例えば、現実には存在しないものを遺贈する旨の遺言など。遺言の目的物が具体的に記載さていないものや内容が単一で明確でないもの、誤解を生じる余地のあるものは無効になります。

  •  詐欺や脅迫によって作成された遺言

だまされて、もしくは脅かされて作成された疑いのある遺言は無効です。

  •  変造・捏造された遺言

自筆証書遺言に起こる問題です。公正証書遺言ならば変造・捏造の心配はありません。

  •  公序良俗に反する遺言、錯誤に基づく遺言

犯罪行為や違反行為につながる場合、その記述が無効になります。内容の重要部分に重大な勘違いがあった場合、その部分が無効になります。(796)

 

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