日本の相続税110-相続 相続放棄しても生命保険金は受け取れる

<日本の相続(110)-相続放棄しても生命保険金は受け取れる>

保険金受取人の指定が誰であるかによって、保険金請求権の取り扱いが異なります。保険金受取人として被相続人が指定されている場合は、保険金請求権は遺産であり遺産分割の対象となります。被相続人ではなく特定の相続人が指定されている場合は、相続人が保険金請求権を取得し遺産には含まれません。

保険金受取人を相続人とだけ書いて指定していた場合は、生命保険契約の効果として、被保険者の死亡時の相続人が保険金請求権を取得します。この保険金請求権は相続財産ではなく、相続人が保険契約上直接に権利を取得するものであり、遺産に対する債権者は保険金からの返済を請求することはできません。多額の負債が遺された場合などには、相続人は相続を選択せず相続放棄することができますが、相続放棄して債務を継承せず、生命保険金だけを受け取ることができます。保険金受取人の欄に指定がない場合も、通常は保険約款に相続人が保険金受取人になるとの条項があるため、相続人が平等割合で固有財産として生命保険金を受け取ることができます。

この際注意を要するのは、生命保険金の取得割合は法定相続分によらず、「別段の意思表示がないときは、各債権者はそれぞれ等しい割合で権利を有する」(民法427条)の規定によって人数割で平等に支払われます。(215)

日本の相続税109-相続 相続財産にならない生命保険金

<日本の相続(109)-相続財産にならない生命保険金>

被相続人(故人)が保険金受取人として指定されている場合と、妻や子などの相続人が保険金受取人に指定されている場合とでは、保険金請求権の取り扱いが異なります。被相続人が保険金受取人に指定されていれば、保険金請求権は被相続人の権利ですから、これも遺産であり遺産分割の対象となります。相続人がこの生命保険を受け取ると相続放棄はできなくなります。

父が多額の負債を抱えて死亡し、保険金受取人に指定された相続人(子)が生命保険を受け取った場合も、相続放棄ができないのではないかと疑問が生じます。保険金請求権が相続財産に含まれるかどうかという問題ですが、それは保険金受取人の形態によって異なります。保険金受取人が特定の相続人(妻や子など)に指定されている場合は、生命保険契約の効果として保険金受取人が保険金請求権を取得するので相続財産には含まれず、相続放棄した相続人でも、この保険金請求権を取得します。例えば、1億円の負債を抱えて死亡した父が、他に財産はなく、子に1億円の生命保険契約をしていた場合、子は相続を放棄して1億円の債務を継承せず、1億円の生命保険だけを受け取ることが可能となり、債権者にとっては甚だ面白くない結果となります。(109)

日本の相続税108-相続 生命保険請求権の相続

<日本の相続(108)-生命保険請求権の相続>

生命保険は保険契約者と保険会社との間の契約です。被保険者が死亡すれば、契約により保険金の支払いが行われます。保険の契約をした者を保険契約者、保険金を受け取る権利者を保険金受取人といいます。特に指定がなければ、保険契約者が保険金受取人となります。保険契約者は契約上、保険金受取人を妻や子など自分以外の者に指定することができます。また、自分以外の者を被保険者(保険の対象者)として保険契約を締結することもできます。

被相続人(故人)が自分を保険金の受取人として契約し、妻や子など他の保険受取人を指定していなかった場合は、その保険契約上の権利は被相続人の財産です。保険金請求権は被相続人の相続財産に含まれ、妻や子などの法定相続人が、他の相続財産と併せて相続することになります。保険金請求権は、遺産となり、債権として遺産分割の対象となります。(ただし保険金が支払われた後は、遺産の中の現金となります。)

被相続人は保険契約者でなくても、被相続人が保険金受取人に指定されていれば、保険金請求権は被相続人の権利ですから、これも遺産であり遺産分割の対象となります。相続人がこの生命保険を受け取ると相続放棄はできなくなります。(213)

日本の相続税107-相続 限定承認の選択

<日本の相続(107)-限定承認の選択>

限定承認は、相続人がプラスの相続財産の範囲内だけで故人のマイナス財産(債務)を負担する、条件付きの相続方法です(民法922条)。返済後財産が残ればそれを相続します。

相続放棄は相続人としての地位から離脱し、相続財産の正負にかかわらず継承しないのに対し、限定承認は相続を承認して相続財産の資産・負債を引き継ぐものの、債務の支払いは相続した財産の範囲内に留めるという方法です。特にマイナスの財産がプラスの財産よりも多い可能性のある場合は、有効な手段です。従って、債務超過になっても自分の財産で返済に当てる必要はありません。

次の場合に限定承認を選択すると効果的です。

1.     相続財産と債務がいくらあるか分からず、特に債務超過に陥っているか否か不明な場合には、相続財産を限度として弁済を行うことができます。

2.     相続人が家業を受け継いで再建をはかる見通しがある場合には、相続放棄をせずに、限定承認を行い家業の再建をはかった方がよい場合があります。

相続財産の中に先祖伝来の家宝などがあって、どうしても相続したい場合に、限定承認をした上でその家宝の鑑定評価額を弁済することで競売にかけられずに済みます。(107)

日本の相続税106-相続 相続放棄の手続

<日本の相続(106)-相続放棄の手続>

相続放棄をする手続きは、自分が相続人であることを知ったときから3ヵ月以内に、相続放棄申述書に必要事項を記入して家庭裁判所に提出します。後日家庭裁判所から呼び出しがあり、裁判官の面前で申述が虚偽や脅されたものではなく、真意に基づくものである旨を申し述べます。そして、相続放棄申述受理証明書の発行を受けます。被相続人の債権者にこの証明書を見せれば、返済義務がないことの証しとなり請求されなくなります。

相続放棄によって思いがけない結果を生み出すことがあります。例えば、父親が亡くなり、法定相続人は母と子二人の合計三人であったとします。すべての遺産を母が相続できるようにと、子二人がそろって相続放棄をしたとします。その結果、それまで相続人でなかった第二順位の直系尊属(故人の親や祖父母)あるいは第三順位の兄弟姉妹が法定相続人になります。相続人が増えるため、母は財産の3分の2あるいは4分の3しか相続することができなくなり、子の意図することは達成できなくなります。

このような結果を招かないようにするためには、子は相続放棄の手続きをすることなく、便宜的に「相続分皆無証明書」を利用して相続登記をして遺産分割を済ませます。この方法により、子が法定相続人の地位を保ちながら事実上の相続放棄をして、母に遺産の全部を帰属させることができます。(106)

日本の相続税105-相続 相続熟慮期間

<日本の相続(105)-相続熟慮期間>

 遺産相続は、故人が生前に所有していた財産上のすべての権利義務を相続人が継承するため、借金などのマイナスの財産(負債)も取得します。明らかに負債の方が多い場合は、相続を放棄する権利や、相続財産の限度で責任を負う限定承認の権利が、民法で認められています。

相続を放棄するか承認するかの選択は、自分が相続人になったことを知った時から3ヵ月の「熟慮期間」以内に行わなければなりません。故人と疎遠で遠方に離れていたため、または財産の種類が多く権利関係が複雑なため、相続人調査や相続財産調査に3ヵ月以上の時間がかかるおそれがある場合は、家庭裁判所に熟慮期間の延長を申請することができます。一人の相続人の申請で共同相続人全員の延長ができます。

単に相続が開始されたことを知っただけでなく、「相続人が相続財産の全部もしくは一部を認識した時」も3ヵ月をかぞえる起算点となります。故人と法定相続人の関係は、夫婦、親子の場合が圧倒的に多いため、死亡日が起算点となるのが一般的です。半年後に死亡を知り相続財産を認識したなら、勿論半年後が起算点です。先順位の相続人がすべて相続放棄をしたため次順位の者が相続人となった場合には、「先順位の相続人が全員相続放棄をした事実を知った日」が起算点となります。(105)

日本の相続税104-相続 単純承認

<日本の相続(104)-単純承認>

相続が開始したからといって、誰もが喜んで相続人として遺産を引き継ぐとは限りません。土地、建物、預貯金などのプラスの財産よりも負債(マイナスの財産)の方が多い場合や相続争いに巻き込まれたくない場合には、相続を選択せずに「相続放棄」(民法938条)することができます。また、負債はプラス財産の限度内で引き継ぐという条件付で相続する「限定承認」(民法922条)を選択することもできます。相続放棄および限定承認は、相続開始後3ヵ月以内に家庭裁判所へ申述しなければなりません。

相続放棄あるいは限定承認の申述をしないことは、すなわちプラスの財産と負債の財産の一切を相続する「単純承認」の立場を採ることを意味します。単純承認には何らの届け出も必要とせず、自分が相続人になったことを知った時から3ヵ月が過ぎると、自動的に単純承認したこととして扱われます。相続財産の一部または全部を処分したり、相続放棄や限定承認した後で相続財産の一部または全部を隠匿した場合も、単純承認したこととなります。

相続人は、単純承認したことによって、単純承認の取消し(撤回)はできなくなりますし、その後は相続放棄や限定承認を選択することはできません。(209)

日本の相続税103-相続 形見分け

<日本の相続(103)-形見分け>

 形見分けとは、故人の愛用していた衣類や所有品を親族や友人に分けることで、習慣として行われているものであり、法律上の根拠はなく相続の問題ではありません。

形見分けで争いになるのは、それが相続財産の処分なのか、単なる形見分けなのかの区別です。形見分けとして財産を処分したつもりでも、それが相続財産の処分とみなされて、その後に相続放棄をしようとしても認められないことがあります。相続財産を処分すると、財産と債務を無条件、無制限に受け入れる単純承認を選択したこととみなされるからです。

形見分けと相続財産の処分の区別は、財産が市場取引の対象となる価値があるかどうかで判断されます。従って、故人が愛用していた衣類や万年筆、特別高価でない時計などで、親子や親族の情愛の発露といえるような主観的価値が主とみられるものであれば、財産の処分とはなりません。美術品や骨董類、宝石などで市場取引の対象となり得るものは、故人が生前に「自分が死んだら形見として与える」と言ったとしても、安易に分け与えるべきではありません。形見分けで与えた衣類について、市場取引の対象にとなり価値が高いため、財産処分に当たるとした判例があります。(208)

日本の相続税102-相続 特別縁故者にかかる相続税

<日本の相続(102)-特別縁故者にかかる相続税>

親兄弟などの身寄りがない独身者が亡くなり、内縁の妻や療養看護に努めた看護士など、相続人以外の「特別縁故者」が財産の分与を受けた場合、相続税の課税関係がどうなるか検討します。

取得財産は「相続財産法人」からの遺贈取得という扱いとなり、分与された特別縁故者が相続税の申告をします。財産の取得時期は分与が確定した時であり、そこから10ヶ月が相続税の申告期限となります。取得者が配偶者や一親等の血族以外であるため、相続税は2割加算になります。基礎控除は、相続人がいないため各相続人1000万円ずつの加算はなされず、5000万円だけです。従って、財産の時価が5000万円を超えなければ相続税は課せられず、超えたときは超過額に相続税が課せられます。

家庭裁判所での相続人捜索の公告や相続権主張の催告、相続人不存在の確定など、「特別縁故者」が財産分与を受ける手続きに最低でも13ヶ月かかります。さらに「特別縁故者」が自ら申立てしなければ分与されないなど、手続きはいたって煩雑です。これを回避するための対策として、生前に遺言を作成しておくことが勧められます。遺贈登記による名義変更手続きのことを考慮して、「遺言執行者」を指定しておくことも必要です。(207)

日本の相続税3

Copyright © 2014 Joe Oshima, CPA All Rights Reserved