プロベート手続きと合有所有財産(Joint Tenancy) 

米国で財産を遺して人が亡くなると、遺産は、一旦、プロベート(検認)裁判所の監督下に置かれます。遺言がある場合とない場合とでは手続きに違いがあり、遺言がないとプロベートに費やされる時間が遺言がある場合よりも、6ヵ月ないし3年長くなります。プロベート手続きが長引けば、弁護士費用が大幅に増えることを覚悟しなければなりません。

プロベート手続きを経ることなく財産を相続人に引き渡すことができれば、時間と費用の節約になります。その一方法が、資産の所有形態を合有所有(Joint Tenancy)にすることです。合有所有者の一人の死亡によって相続が発生した場合、生き残った方の合有所有者が自動的にその持分を継承できます。この方法は、プロベート手続きを避ける手段として、銀行口座、不動産、株などの様々な資産について広く用いられています。資産を合有所有する者は夫婦に限定されておらず、夫婦以外の2名以上の複数名で用いることも可能です。プロベート手続きを回避しても、必ずしも遺産税の回避にはつながらないことにご注意ください。

合有所有財産の設定にあたって拠出した資金と、その対価として取得した持分が一致しない場合には、自己の持分に応じた以上の資金を拠出した者から、自己の持分に応じた資金を拠出していない者に対する贈与として、例えば親から子への贈与として、米国においても日本においても贈与税の課税の対象となることに注目してください。(535)

有効な遺言の要件

米国では州ごとに有効な遺言の要件が定められています。遺言が有効と認められるための一般的要件は次の通りです。

  1. 遺言者が心神喪失状態にないこと。
  2. 遺言者が18歳以上であること。
  3. 遺言者が少なくとも一以上の実在する有形財産を有していること。
  4. 1人以上の遺言執行者を選任すること。
  5. 遺言者は遺言に署名をして作成年月日を記入すること。
  6. 2人以上の証人が遺言に署名すること。

証人は、心神喪失状態にないこと、そして18歳以上の者でなければなりません。証人は利害関係者以外の者であり、その遺言によって財産を受け継ぐ権利が与えられてはなりません。証人は遺言者の署名を見届けた後、証人自身も署名します。カリフォルニア州、メイン州、ミシガン州、ニューメキシコ州、ウィスコンシン州の5州では法定遺言の書式が定められていて、必要事項を記入することで信頼性の高い遺言を容易に、そして安易に作成できます。必ずしも遺言を公証してもらう必要はありませんが、通常、遺言者と証人が、署名入りの自己証明供述書(Self-proving affidavit)と呼ばれる書類に公証を受けておけば、後のプロベート手続きで証人の証言を不要とする扱いが受けられます。(534)

 

遺言のすすめ

遺言とは、自分の死後の財産処分の法律関係について、本人単独の意思表示を記した法的書類のことです。遺言は、相続の執行を円滑かつ速やかに、そして確実に確保するために、ぜひとも用意しておくことが勧められます。遺言によって、個人または組織が遺言執行人として指名され、故人に代わって財産を遺言どおりに分配処理します。遺言には、州法とは異なる遺産分割方法の指定、法定相続人以外への遺贈、慈善団体への遺贈、相続人の廃除、未成年相続人に対する後見人の指定などの事項に関する意思表示が明記されます。すなわち、遺言には、誰にどの財産をどのように分配するかが書かれています。

遺言を遺さずに死亡した場合、プロベート(検認)裁判所が遺された財産の管理を行う相続代理人を指名します。州法に基づいて相続人(配偶者および子などの直系の家族)を特定し、故人名義の財産、動産、不動産などの所有権を確認し、誰がどの財産を受け取るかについて命令を下します。プロベートには、所有権の名義変更と遺産税の納付も含まれます。最終的に、遺産は法定相続人に分配されるものの、通常、州のプロベート裁判所での手続きに1~3年を必要とします。そのため、相続分配を、確実に早く執行させることは望めません。遺言がない場合、時間がかかる分、弁護士費用も高くなります。(533)

 

国境を超える相続税

 日本で親が亡くなり、米国に住んでいる子が親の財産を相続する場合の相続税について検討します。

日本国籍を有する日本居住者(親)が亡くなった場合、遺された財産の所在国や相続人(子)の国籍、居住国に関わりなく、日本の相続税が必ず課せられます。すなわち、日本にある財産であるか、日本国外にある財産であるかに関わりなく、全世界財産が課税対象となります。また、相続人が日本国籍を有する日本居住者である場合は勿論のこと、米国に居住するグリーンカード保持者や外国籍保持者であっても、日本の相続税が課せられます。例外として、相続人と被相続人の双方が5年超日本国外に居住し、国外財産が関与する場合に限り非課税扱いとするという規定があります。

米国の遺産税は、日本のように財産を受け継ぐ相続人(子)に課せられるのではなく、遺された全遺産の価値に対して課せられる税金であり、相続人の人数や居住国に関わりなく計算されます。米国税法上の親の身分は非居住外国人であるため、課税対象となる遺産は一定の米国内財産(不動産、家具、車、宝石等の有形資産、米国法人発行の株式、米国債券)だけに限られます。非居住外国人名義の米国銀行預金や外国株式・債券、生命保険金は、遺産税法上非課税です。親が遺した財産は日本だけにあって米国にはない場合は、連邦遺産税は発生しません。米国国外(日本)で相続や贈与を受け取った場合、その内容と金額をフォーム3520に記入して、IRS(内国歳入庁)へ報告する義務があります。(531)

有効な遺言(米国)

米国では州ごとに有効な遺言の要件が定められています。遺言が有効と認められるための一般的要件は次の通りです。

  1. 遺言者が心神喪失状態にないこと。
  2. 遺言者が18歳以上であること。
  3. 遺言者が少なくとも一以上の実在する有形財産を有していること。
  4. 1人以上の遺言執行者を選任すること。
  5. 遺言者は遺言に署名をして作成年月日を記入すること。
  6. 2人以上の証人が遺言に署名すること。

証人は、心神喪失状態にないこと、そして18歳以上の者でなければなりません。証人は利害関係者以外の者であり、その遺言によって財産を受け継ぐ権利が与えられてはなりません。証人は遺言者の署名を見届けた後、証人自身も署名します。カリフォルニア州、メイン州、ミシガン州、ニューメキシコ州、ウィスコンシン州の5州では法定遺言の書式が定められていて、必要事項を記入することで信頼性の高い遺言を容易に、そして安易に作成できます。必ずしも遺言を公証してもらう必要はありませんが、通常、遺言者と証人が、署名入りの自己証明供述書(Self-proving affidavit)と呼ばれる書類に公証を受けておけば、後のプロベート手続きで証人の証言を不要とする扱いが受けられます。(530)

 

 

日本の相続税の増税 (2015年1月1日から)

相続税は、人が一定金額を超える財産を遺して亡くなった場合に、財産を受け継ぐ相続人に課税される税金です。2015年1月1日以降の相続から、日本の相続税の最高税率は50%から55%に引き上げられ、基礎控除はそれまでの金額の60%に縮小されます。この税制改正後、より多くの人が相続税の支払いを必要とすることになります。

税率は10%から50%までの6 段階の累進税率から10%から55%までの8段階の累進税率になります。基礎控除は一定基本額に、法定相続人の人数を掛け合わせた金額を加えた合計額です。2014年までの「$5000万円+$1000万円x 法定相続人の数」から、 2015年以降は「3000万円+600万円x 法定相続人の数」で計算した金額になります。

例えば、法定相続人二人の場合、2014年以前の基礎控除の額は7000万円でしたが、2015 年以降の基礎控除の額は4200万円になります。2014年までは相続財産が7000万円以下であれば、相続税が課税されずに財産を受け取ることができました。2015年以降は、遺された相続財産が7000万円とすると、基礎控除の4200万円差引後の2800万円に370万円の相続税が課税されます。

相続人の中に米国在住者がいる場合、相続財産の中に米国国内財産が含まれていない限り連邦遺産税の申告・納税を行う必要はありませんが、フォーム3520に相続財産の内容を記入して、IRS(内国歳入庁)へ情報申告をする義務があります。(511)

 

海外で受け取った贈与・相続の報告

米国居住者が非居住外国人 (例えば日本の親) から受け取る国外財産の贈与や相続には、米国の贈与税・遺産税は課税されません。課税対象となるのは、米国内にある財産の移転に限られます。米国での課税が生じなくても、海外で贈与・相続を受けたことをIRS (内国歳入庁)へ報告しなければなりません。日本で一定金額を超える不動産や預金などの財産を親から受け継いで贈与税や相続税を納めた受贈者が米国居住者である場合、申告書フォーム3520 (Receipt of Certain Foreign Gifts) に財産の詳細内容を記入の上、

IRS へ報告する義務があります。提出先は、所得税申告書の提出先とは異なり、ユタ州にあるIRSセンターです。報告書の提出期限は、所得税申告書の提出期限と同じ暦年終了後の4月15日(延長可)です。提出義務者は、海外贈与・相続の受贈者・相続人です。遅延申告の場合、ペナルティーが課せられます。

申告書フォーム3520の記入事項は、次の通りです。

1.     納税者の氏名、ソーシャル・セキュリティー番号または納税者番号、住所。

2.     課税年度内に非居住外国人から受け取った10万ドル超の非課税贈与・相続・遺贈の移転日、贈与者・被相続人氏名、財産の内容を、時価$5000 超の財産ごとに記載。

3.     外国企業等から受け取った1万5358ドル超(2014年)の贈与、移転日、贈与者名、同住所、納税者番号、財産の詳細内容、時価。(507)

 

永住権保持者の贈与税・遺産税

永住権(グリーンカード)保持者は、所得税法上、居住外国人として米国市民と同等の扱いを受け、全世界所得が課税の対象となることは周知の通りです。永住権を保持している外国人が自動的に「居住外国人」の扱いを受けるのは、所得税法上の取り扱いに限ります。贈与税・遺産税法の取り扱い上、所得税で使われる「実質的滞在条件」とは全く異なるDomicile(定住地)という概念が適用されて、永住権保持者は居住者あるいは非居住者のいずれかに判定されます。所得税法上の判定基準を贈与税・遺産税に流用して、すべての永住権保持者を米国籍と同等として取り扱うのは致命的な誤解です。Domicile (定住地)とは、本人がいずれは戻ってきて定住すると考えている故郷のような場所のことで、それが米国内にあれば「居住外国人」、米国外にあれば「非居住外国人」となります。そのため、ビザで米国に滞在するすべての外国人および多くの永住権保持者は、贈与税・遺産税法上、非居住外国人とするのが正しい判定となります。
非居住外国人と判定される永住権保持者は、連邦遺産税の基礎控除額として6万ドルだけが認められ、米国市民に適用される534万ドル(2014年)の非課税額は認められません。同様に、連邦贈与税の基礎控除額として受贈者一人当たり年間1万4000ドルだけが認められ、米国市民に適用される534万ドルの生涯非課税贈与額は認められません。非居住外国人は、贈与税・遺産税の基礎控除額が大幅に制限される一方、課税対象となる贈与・遺産として米国内資産だけが含まれることとなっています。(499)

日米相続税条約の効用

日本の相続税・贈与税は、相続人および受贈者に対して課税されます。それに対して米国の連邦遺産税・贈与税は、被相続人(死亡者)・贈与者に対して課税されます。日米で相続税・贈与税の納税義務者が逆になっています。そのため、相続人が日本に居住し、被相続人が米国に居住している場合は、日米両国で全世界財産が課税の対象になることによる二重課税が生じます。このような二重課税を排除するために締結されたのが日米相続税条約です。

 

米国税法上の非居住外国人が日本と米国に財産を遺して亡くなった場合、米国に所在する財産のみが連邦遺産税の対象となります。米国国内法で非居住外国人に認められる遺産税の基礎控除の額は6万ドルです。6万ドルは、米国市民・米国居住者に適用される非課税遺産額の$5,340,000(2014年)と比較して著しく低い金額であることから、日本国籍を持つ非居住者には日米相続税条約第4条に基づいて、市民・居住者用の非課税遺産額を適用する特例計算が認められます。

 

米国内遺産が全世界遺産に占める割合を市民・居住者に認められている非課税遺産額に掛け合わせた金額を、非居住外国人の非課税遺産額とする計算であり、節税に役立ちます。(473)

相続税の外国税額控除 

日本の国籍を有する日本居住者が亡くなり、相続人である日本の家族が遺産を相続することになりました。遺された財産は、日本の銀行預金と不動産、米国の不動産です。日本では日本国内財産ばかりでなく、国外(米国)財産を含む全世界財産が日本の相続税の対象となります。日本の相続税の申告・納税義務者は、各相続人です。

 

日本に居住する日本人の米国税法上の身分は、非居住外国人と呼ばれます。非居住外国人が米国国内不動産を残して亡くなった場合、米国遺産税の対象となります。米国遺産税の申告・納税義務は、相続人ではなく被相続人の遺産にあります。すなわち、実際の申告と納税は、被相続人のかわりに遺言執行人または遺産管理人が執り行います。

 

すでに一度、米国で遺産税の課税を受けた米国不動産を、日本において再度相続財産に含めて日本の相続税の計算を行うと、日本において二重課税が生じます。この二重課税問題を解決する調整方法が、日本の税法上の「外国税額控除」です(相法20の2)。相続により取得した国外財産について、その地の法令により相続税に相当する税が課された時は、相続税相当額を控除できます。ただし、相続税合計額に国外財産が財産総額に占める割合を掛け合わせた金額を超えないこととなっています。(472)

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