雇用主による就労資格の確認

アメリカで会社が人を雇う際にしなければならないことの一つに、雇用合法性の審査・確認があります。すなわち、従業員が米国市民であるか、あるいは就労資格を伴う合法ビザを保有している外国人であるかを確認する義務があります。この義務を怠った場合は、罰金の対象となります。例えば、不法就労者と知りながら雇用した場合、あるいは、雇用後就労資格を失ったことを知りながら継続雇用した場合の罰金は最高11,000ドルです。恒常的違反の場合、罰金に加えて懲役の刑事罰があり、連邦政府との司法取引が禁止されます。フォームI-9の保管義務を怠った場合、あるいは、記載不備があった場合も罰金が科されます。

 

 

従業員は、自分の身元と合法的就労を証明する書類を提示し、移民局の用紙であるフォームI-9(Employment Eligibility Verification)に必要事項を記入して署名します。雇用主である会社は、従業員が提示する証明書を確認して写しをとり、署名したフォームI-9に添付して社内に保管します。国土安全保障省または移民局へのフォームI-9の提出の必要はなく、当局が行う調査の際、提示を求められた時にフォームI-9を提出します。フォームI-9の保管期間は、従業員の雇用日から3年、または、解雇日から1年、どちらか遅い方の日です。(484)

 

国際機関Gビザと税金

国際機関(国際連合UN、国際通貨基金IMF、世界保健機関WHO、国連児童基金UNICEF、国連教育科学文化機関UNESCO、経済協力開発機構OECD、世界貿易機関WTOなど)に勤めるGビザ保持者は、税法上の居住者・非居住者を決定する「実質滞在条件」の日数計算上、除外される個人と規定されているため、たとえ何年間米国国内に住んでいても非居住外国人となります。

 

国際機関から受け取る給与や手当ては、米国の所得税が一切課せられることがなく、申告する義務もありません。Gビザの職務以外の所得、例えば本人または家族による米国源泉のアルバイト収入や個人的な投資所得などについては、通常の非居住者外国人に適用される税法規定に基づいて課税関係が決定します。役務の提供による給与所得や事業所得は、米国内の商活動と実質的に関連のある所得として、通常の所得税(2014年現在10~39.6%の7 段階の累進税率)の対象となります。そして、フォーム1040NRによる確定申告と納税を必要とします。 非居住外国人の申告であるため、居住外国人に適用される夫婦合算申告や概算額控除、配偶者控除、扶養控除などは認められず、人的控除は本人分の基礎控除(2014年3950ドル)だけが認められます。銀行預金利子は非課税であり、配当は日米租税条約第10条の適用により10%の源泉徴収税の対象となります。社会保障税(ソーシャルセキュリティー税とメディケア税)は非課税です。連邦税の申告を必要とする場合、州居住者としての所得税の申告も必要です。(482)

外交・公用のためのAビザと税金

Aビザを保持する大使館、総領事館などの外国政府勤務者やその家族は、米国税法上、非居住外国人として扱われます。Aビザは、居住者・非居住者の判定基準である「実質滞在条件」の適用外とされていて、たとえ何年間米国内に滞在していても、非居住外国人となります。Aビザ保持者が本国政府のために活動し、本国や在外公館から受け取る給与や報酬、手当ては、支払いの場所や金額に関わりなく、全額が非課税であり、連邦税の申告・納税の必要もありません。

 

政府の職務以外の所得、例えば本人や配偶者による外部アルバイト収入や個人的投資所得は、通常の非居住外国人のための税法規定が適用されて課税が発生します。外部アルバイト収入は、通常の連邦所得税(10%~39.6% の7段階の税率)の対象となり、フォーム1040NRによる確定申告が必要です。連邦税に加えて、さらに州・市所得税の確定申告も求められます。

 

米国での納税・申告に必要となるのが個人納税者番号(ITIN)です。通常、ソーシャル・セキュリティー番号が個人納税者番号として役立ちますが、Aビザ保持者はソーシャル・セキュリティー番号を持っていないため、ITINを取得しなければなりません。ITIN の申請のためにはやや煩雑な手続きを要します。(481)

学生ビザのソーシャル・セキュリティー税還付(その2)

F(学生)やJ(交換訪問者)、M(専門学校生)、Q(交流訪問者)などのビザ保持者が米国で受け取る給与は、ソーシャル・セキュリティー税とメディケア税(FICA税)が免除されます。間違って源泉徴収されたFICA税の還付は、雇用主から支払われるのが本来の方法です。何らかの理由で雇用主からの還付が受けられない場合の代替還付方法は以下の通りです。

 

納税者本人が還付請求書フォーム843(Claim for Refund and Request for Abatement)をIRSへ提出して還付を受けます。還付請求書フォーム843 の記入事項は、氏名、住所、ソーシャル・セキュリティー番号、還付請求額、税金の種類、課税年度、詳細な説明、署名です。フォーム843 には、還付請求の根拠となる次の証拠書類を添付する必要があります。
・ 源泉徴収票フォームW-2(FICA税が徴収されたことを示すため)の写し
・ ビザの写し
・ フォームI-94(Arrival Departure Record 米国出入国記録)の写し
・ F-1ビザの場合、フォームI-20の写し
・ J-1ビザの場合、フォームDS-2019の写し
・ OPTの場合、フォームI-766またはI-688Bの写し
・ 既に受け取った還付金を示す書類(雇用主発行)。この書類がない場合、その理由を記述した書類、またはフォーム8316(間違って徴収されたソーシャル・セキュリティー税の還付に関する情報)。
フォーム843は、雇用主が給与関係税申告書を提出したIRSの住所に提出しなければなりません。(477)

学生ビザのソーシャル・セキュリティー税還付

F(学生)、J(交換訪問者)、M(専門学校生)、Q(交流訪問者)のビザを保有し、勉学、教職、研修の目的で米国に滞在する非居住外国人が働いて受け取る給与は、所得税の対象になります。これらのビザ保持者は、ソーシャル・セキュリティー税とメディケア税(FICA税)については免税とされているため、手取金額が免税分だけ多く支給されます。日米社会保障協定を適用して日本の社会保障制度に継続加入する日本からの派遣駐在員も、同様にFICA税が免除扱いとなります。
何らかの手違いにより上記ビザ保持者の給与からFICA税が源泉徴収されて給与が支給されることがあります。その場合、納税者は免税を規定した根拠法の条項(IRC内国歳入法第3306(c)(19)条)を雇用主に提出することにより、間違って源泉徴収されたFICA税の還付を受けることができます。雇用主は、IRS(内国歳入庁)へ給与関係税フォーム941の修正申告を提出して納税金額を調整し、納税者にFICA税を還付することになります。既に源泉徴収票フォームW-2が発行されている場合、雇用主はさらに社会保障事務所へ修正されたフォームW-2の提出を必要とします。間違って源泉徴収されたFICA税は、本来、雇用主から還付されるのが正しい方法です。それにもかかわらず、雇用主からソーシャル・セキュリティー税還付を受けられない場合は、代替方法による還付請求が可能です。納税者本人が還付請求書フォーム843をIRSへ提出して還付を受ける方法です。(476)

学生ビザと税金

Fビザ、Jビザ、Mビザ、Qビザ保持者は、所得税法上の居住者・非居住者の判定基準である「実質的滞在条件」からの除外個人とされていて、米国滞在日数が183日を超えても居住者にはならず、非居住外国人として扱われます。OPT(卒業後の実務研修)の期間も非居住者扱いとなります。学生の米国滞在が5年経過後は原則、「実質的滞在条件」が適用されて居住者と判定されます。学生は「実質的滞在条件」からの除外個人である旨を身分情報申告書フォーム8843に記入して、毎年IRSに提出する義務があります。学生が受け取る、教育または生計維持のための親・会社・政府からの仕送り・手当・給付・交付金等の日本からの送金は、米国では非課税です(日米租税条約第19条)。

 

学生が働いて米国の雇用主から支払われた給与は、租税条約が適用されず、連邦・州の所得税の対象となります。非居住者用の個人所得税申告書フォーム1040NRで所得税を計算し、源泉徴収税による納付税金との清算を行います。不法就労の場合であっても、受け取る報酬は所得税の対象となるため、申告義務があります。上記ビザ保持者に支払われる給与は、社会保障税(ソーシャルセキュリティー税とメディケア税)が免除されます。ただし、社会保障税が免税となるのは、学生の専攻分野と仕事の内容に原則つながりがある場合に限ります。免税であるにもかかわらず間違って源泉徴収された社会保障税は、通常雇用主を通じて還付されます。(475)

留学生の税務:アルバイト収入は確定申告する:Student and Tax

<留学生の税務:アルバイト収入は確定申告する:Student and Tax>

教育を受けることを主たる目的として米国に滞在する学生は、教育または生計維持のために受け取る日本からの給付や仕送りについて、米国での課税が免除されます(日米租税条約第19条)。税金が免除となるのは、学生およびその家族のための親からの送金や日本の雇用主からの手当、政府等からの交付金など、あらゆる日本からの送金を含みます。

Fビザ、Jビザ、Mビザ、Qビザを保持して、フルタイムで通学している留学生は、「実質的滞在条件」の日数計算上、除外個人と規定されていて、米国滞在日数が183日を超えても非居住外国人と分類されます。通常は入国してから5年間は非居住者として扱われ、6年目以降は「実質的滞在条件」の計算が適用されて、実際の米国滞在日数の長短によって居住者・非居住者が決まります。米国内での就労による報酬を受け取らず、収入は日本からの非課税送金だけである場合、毎年フォーム8843(Statement of Exempt Individual)に学校名、所属学部名などを記入した情報報告書をIRSへ提出する義務があります。アルバイトなど役務の提供により米国内で給与の支給を受けた場合は、連邦および州の所得税の対象となるため、非居住外国人用のフォーム1040NRで税金を計算し、フォーム8843を添付して確定申告しなければなりません。(443)

Lビザ(社内転勤)と税金

<Lビザ(社内転勤)と税金>

Lビザは、多国籍企業の重役・管理職(L-1A)および特殊技能(L-1B)の社員の社内転勤に発行される就労ビザです。企業が社員のために申請するビザであり、個人での申請はできません。配偶者にはL-2が発行され、許可を受けるとソーシャル・セキュリティー番号の取得が許され、就労が可能となります。大規模な多国籍企業の場合、一人一人の社員のためにビザを申請するのではなく、一括して会社ごと申請することが可能であり、社員を米国に派遣したいときにその都度申請する手間が省けます。

Lビザ保持者は、「実質的滞在条件」が適用され、183日を基準とした滞在日数よりも長いか短いかによって居住者あるいは非居住者になります。赴任年度と離任年度に滞在日数が少ないため非居住者になる場合がある以外、居住者とされて米国市民同様、全世界所得を申告して納税する義務があります。居住者は全世界所得が課税対象になり、項目別控除または概算額控除のどちらか有利な控除方式を選択して税金計算がきます。非居住者は米国源泉所得だけが課税対象になって、必ず項目別控除方式を適用して税金計算をしなければなりません。社会保障税(ソーシャルセキュリティー税とメディケア税)に関しては、日本からの赴任期間が5年未満の場合、日米社会保障協定に基づいて日本の社会保障税に継続加入することにより、米国の社会保障税が免除されます。就労配偶者の社会保障税の免除は受けられません。連邦贈与税法上、および、遺産税法上、所得税での取り扱いと異なり、必ず非居住外国人となります。(374)

Kビザ(婚約者)と税金

<Kビザ(婚約者)と税金>

K-1ビザは、アメリカ在住の米国市民と結婚することを前提として、海外に在住する婚約者がアメリカへ入国するためのビザです。永住権取得を前提としているため、K-1ビザ審査には永住権取得と同等の厳しさが伴います。K-1ビザの条件は、米国内にいる一方の婚約者が米国国籍保持者であること、そして他方の外国人婚約者が外国にいることです。入国は1回限りであり、他のビザへの変更はできません。入国後は婚約者と90日以内に結婚し、永住権への変更手続きを行わなければなりません。

Kビザ保持者は、「実質滞在条件」を適用計算した米国滞在日数が183日を超えていれば居住外国人となり、超えていなければ非居住外国人となります。12月31日現在、まだ結婚届けを出していない独身の場合、米国滞在日数は90日未満であるため、税法上の身分は非居住外国人となります。すなわち、米国源泉所得がある場合にのみ所得税の申告を必要とします。日本源泉所得などの外国所得は非課税であり、報告義務もありません。

結婚届けを出して12月31日現在既婚者になると、その年度以降、夫婦合算申告、または夫婦個別申告のうち、毎年いずれか有利な申告資格を適用して税金を計算することができます。夫婦合算申告は、一方の配偶者だけに所得があり、他方の配偶者に全く所得がなくても適用可能であり、個別申告よりも税金が低く計算されるため大変有利な申告資格です。配偶者の身分が非居住者の場合でも、選択により居住者として扱って夫婦合算申告を適用することが認められます。(373)

Jビザ(交流訪問)と税金

<Jビザ(交流訪問)と税金>

交流訪問者用のJビザは、教育機関やその他非営利機関公認の研修、インターンシップ・プログラムへの留学生や研究者としての参加者に発給されます。国務省教育文化局により指定されたこれらのプログラムは、日米交流を推進する原動力となっています。医学の学位を持ちレジデントまたはインターンとして実習する医学生、客員教授として大学から招聘(しょうへい)される学者、奨学金を得て研究機関で研究活動をする教授クラスの研究者、高校生の交換留学、企業の研修生、夏季実習などのプログラムやオペアプログラムも含まれます。

Jビザは、「実質的滞在条件」(IRC内国歳入法第7701条)からの除外個人とされていて、米国滞在日数が183日を超えても、一定の限られた年数の間、税法上非居住者として扱われます。Jビザの教授、または、研究者は、米国入国から最初の2年間については非居住外国人であり、2年経過後は居住外国人となります。教授・研究者が、大学、病院、その他の教育機関において教育または研究について受け取る報酬は、最初の2年間について課税免除となります。

Jビサ保持者が教授・研究者ではなく、大学の学生である場合は、Fビザ同様、米国入国後5年間について非居住外国人となります。Jビザ留学生が受け取る教育または生計維持のための日本の親・会社・政府からの仕送り・手当・給付・交付金等のすべての送金は、米国では非課税です。Jビザ保持者は社会保障税(ソーシャルセキュリティー税とメディケア税)も免除されます。(372)

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