日本の相続税79-相続 失踪宣告

<日本の相続(79)-失踪宣告>

長期間にわたって音信不通で生死が不明である場合(普通失踪)や、船舶沈没や戦争などの危難に遭遇して明らかに死亡しているのに、その証拠がない場合(危難失踪)、戸籍上生き続けていることになり、財産の相続ができません。配偶者の死亡が確認されなければ、再婚もできません。失踪宣告は、一定要件を満たせば生死不明者が死亡したものとみなして財産処理などを可能にさせ、失踪人を抱える家族を救済する民法上の制度です。(民法30条)

音信不通となり生死不明の期間が7年以上継続している普通失踪の場合、または、船舶沈没や戦争などの危難に遭遇して死亡の可能性が非常に高く、危難の去った日から1年以上生死不明が継続している危難失踪の場合、失踪人と利害関係にある者は、家庭裁判所に失踪宣告を申し立てることができます。申し立てを受けた裁判所は、官報や家庭裁判所の掲示板に一定期間公告して失踪人の生死を知っている者に生存の届出を促します。一定期間に生存の届出がなかった場合、失踪宣告の審判が確定します。失踪宣告によって、相続が開始します。配偶者は婚姻が解消されて再婚が可能となり、生命保険金等も支給されることになります。(184)

日本の相続税78-相続 認定死亡

<日本の相続(78)-認定死亡>

 相続は死亡によって開始します。認定死亡は失踪宣告に類似した制度で、自然死亡と並んで死亡の認識方法のひとつです。(戸籍法89条) 認定死亡とは、水難、火災などの災害に遭遇して、死体が確認できず生死が不明な者を、死亡したものとみなして戸籍手続を行う制度です。本人が生存していた場合や、死亡日時が判明した場合には、戸籍の訂正が行われます。

災害発生から死亡届出までの一連の経過事項の例は、次の通りです。

①      7月1日  父が仲間と海釣りに出かけ、ボートから転落して海中に沈んだ。

②      7月2日  海上保安庁の巡視艇が捜索したが発見できなかった。

③      9月6日  戸籍法89条の規定に基づき、海上保安庁が父の死亡の報告を死亡地の町長に行った。

④      9月7日  町役場から母に、海上保安庁より父の死亡報告を受けた旨の通知があり、母はその日のうちに相続人全員にその旨を伝えた。

⑤      9月12日 父の死亡届(死亡日平成7月1日)を母が市長に提出した。

以上のうち、官公署による死亡報告が地元の町役場に提出されたことを遺族が知った日(④の9月7日)が相続の開始日となります。相続税の申告期限は、その日から10ヵ月後の翌年の7月7日です。(183)

日本の相続税77-相続 同時死亡

<日本の相続(77)-同時死亡>

 家の火災や航空機事故で二人(例えば、父と長男)が死亡し、どちらが先に死亡したのか確認できない場合、同時死亡と推定されます。(民法32条の2) 被相続人が死んだとき、相続人は生きていなければ相続はできません。

二人の遺族が父の配偶者(母)と長男の妻子である場合、父の遺産は配偶者(母)と代襲相続人である長男の子へ、長男の財産は長男の妻と子に相続されます。長男は父の遺産を相続することはありません。

同時死亡の推定は、反証を挙げれば覆すことができます。生存が前後していたことが確認できれば、両者間に相続が開始することがあります。父が先に死亡した場合、父の遺産の法定相続人は母と長男であり、長男の遺産の法定相続人は長男の妻と子です。まず父の遺産が母と長男に2分の1ずつ引き継がれ、次に長男の遺産(父からの相続分も含む)は、長男の妻と子に引き継がれます。長男が父から相続した遺産を、妻子が引き継ぐことになります。(182)

日本の相続税76-相続 自然死亡

<日本の相続(76)-自然死亡>

 相続は被相続人の死亡と同時に始まります。(民法882条) 人が病気や事故で亡くなることを自然死亡といいます。戸籍法上の死亡届の提出には、死亡診断書または死体検案書の添付が必要です。最終診察後24時間以内で、死因が明らかに診療中のものである場合は、医師の診断を受けて死亡診断書が発行されます。それ以外の病院内での死亡や事故死の場合は、検視に当たった医師の死体検案書が発行されます。

やむをえない事情によって死体検案書の発行が得られない場合は、「死亡を証すべき書面」を添付した死亡届を提出します。この証明書には、発行者や様式の制限はなく、官公署の証明書や目撃者の陳述書(本人の死体を見た、亡くなる状況を見たなど)、同じ災害に遭った近隣住民による証明書などでもかまいません。届出書には、死亡診断書または死体検案書を得ることができない事由を記載しなければなりません。

届出義務者(同居親族、その他の同居者、家主・地主・管理人、親族)は、死亡の事実を知った日から7日以内(国外での死亡は3ヵ月以内)に死亡届を提出しなければなりません。届出は死亡地で行います。死亡地が明らかでないときは死体発見地で、船舶内で死亡したときは最初の入港地で、届出を行います。(181)

日本の相続税75-相続 生命保険契約に関する権利の評価

<日本の相続(75)-生命保険契約に関する権利の評価>

 生命保険は、被保険者の死亡や障害によって保険金が支払われますが、これを「保険事故」といいます。保険の契約者・受取人が父親で、被保険者が母親という場合、父親が死亡して被保険者が生きていても「保険事故」は発生せず、保険契約はそのまま存続します。保険金は支払われず、生命保険契約に関する権利は、相続により父親から相続人(子)に受け継がれます。その際、生命保険契約に関する権利は相続財産として扱われ、相続税が課税されます。

生命保険には、定期保険(中途解約では既に払い込んだ保険料は戻らない)や養老保険がありますが、課税対象となるのは払込保険料の一部が解約返戻金として戻ってくる養老保険の方です。

生命保険契約に関する権利の価額は、2003年3月31日までは、一定算式に基づいて計算して3割以上の圧縮評価が可能でした。このため、以前は生命保険契約に関する権利は、相続税対策の一つとして利用されていました。平成15年度の税制改正により、契約者と被保険者が異なる生命保険契約の権利の圧縮評価規定が廃止され、「相続開始時において契約を解約した場合に支払われる解約返戻金の額によって評価する」ことに変更となりました。(180)

日本の相続税74-相続 生命保険金の評価

<日本の相続(74)-生命保険金の評価>

生命保険契約は、契約者(多くの場合、保険料の負担者)、被保険者(生死が問題になる人)、受取人(保険金を受け取る人)の三者で形成されます。通常、契約者と被保険者が同一人で被相続人がなり、受取人は相続人というケースが多くあります。

生命保険が見なし相続財産とされて相続税の対象となる場合、生命保険金の金額は、法定相続人一人について500万円が非課税となります。例えば、配偶者と子供3人が遺された場合、法定相続人は4人ですから2000万円までの生命保険金は非課税となります。生命保険金の評価額は、額面から2000万円分を減額した金額となります。相続放棄をした法定相続人がいる場合は、その分も頭数に加えて非課税額を計算します。生命保険金の評価額は、額面から2000万円分を減額した金額となります。

相続人が相続または遺贈によって生命保険金を取得した場合は非課税額が適用されますが、相続人以外の人が遺贈として受け取る生命保険金には非課税額は認められません。相続人の中に実子と養子がいると養子は1人まで認められ、実子がいなければ養子は2人まで認められるという具合に、非課税額の計算上、養子の数に制限が加えられます。(179)

日本の相続税73-相続 書画・骨董、家具等の評価

<日本の相続(73)-書画・骨董、家具等の評価>

書画、骨董などの美術品は、取引の実例(売買実例価額)や専門家等の意見価格(精通者意見価額)などを参考にして評価します。国税局から鑑定人の紹介を受けて自分で鑑定を依頼することもできます。

自動車は、評価時点で同じ状況のものを買う場合の価格である「調達価額」、あるいは新品の価格から経過年数に応じた減価を控除した額が評価額です。

テレビ、応接セットなどの家財道具は、原則「調達価額」で一つひとつを評価します。しかし、これらのものを原則どおり評価するのは大変ですから、一個または一組の価額が5万円以下のものは、「家財道具一式80万円」というように一括評価します。

電話加入権は、取引相場のあるものは課税時期の取引価額ですが、取引相場のないものは国税局長が定める標準価額が評価額となります。(178)

日本の相続税72-相続 ゴルフ会員権の評価

<日本の相続(72)-ゴルフ会員権の評価>

ゴルフ会員権は、バブル経済崩壊直後は価格が下降気味でしたが、今では値上がりが期待できて換金性の高い金融商品として取り扱われるようになりました。会員権のうち、株式の所有を必要とせず譲渡もできず、返還される預託金がなく、ゴルフ場施設を利用して単にプレーができるだけのものは、評価しません。

相続税のための評価は、会員権が預託形態か株式形態かによって異なります。取引相場のある会員権は、取引価格の70%相当額を評価額とします。取引価格に含まれない預託金があるときは、取引価格の70%相当額に返還される預託金の現在価値を加えた金額です。一定期間経過後に預託金が返還される予定である場合は、取引価格の70%相当額に課税時期から返還予定日までの期間の按分預託金の額(基準年利率による複利現価の額)を加えた金額です。

株式の所有を必要とする取引相場のない会員権の場合、株式の価額を会員権の評価額とします。株式の所有と預託金の払い込みを必要とする取引相場のない会員権の場合、株式の価額に返還される預託金の現在価値を加えた金額を評価額とします。(175)

日本の相続税71-相続 貸付信託等の評価

<日本の相続(71)-貸付信託等の評価>

信託銀行などで扱う貸付信託の受益証券は、信託財産を運用することによって得られた利益を受け取ることができる権利を表示した有価証券です。元本の額に、課税時期(相続時)までの既経過収益からその収益にかかる源泉所得税を差し引いた金額を加えて評価します。ただし、その時点で受益証券を買い取ってもらうときは、手数料を取られますから、その分は控除して評価します。なお、計算期間の収益算出のための予想配当率および買取手数料は、信託銀行に問い合わせて確認します。

証券投資信託の受益証券は、投資家から集めた資金を株などの有価証券に投資し、その運用によって得た利益を受ける権利を表示した有価証券のことです。課税時期に証券会社に解約請求または買取請求をした場合の受取額で評価します。実際には、課税時期の「基準価格」を基に解約手数料などを控除して計算します。基準価格等および解約手数料は、証券会社に問い合わせて確認します。証券取引所に上場されている場合の評価は、上場株式の場合の評価と同様、相続日の最終価格と過去3か月最終価格の月平均を調べて、最も低い価格を選びます。(174)

日本の相続税70-相続 預貯金の評価

<日本の相続(70)-預貯金の評価>

相続財産の評価は、遺産分割や相続税算出のために必要不可欠です。殆ど誰にでもある財産である預貯金は、原則、相続開始日の残高を財産価額とします。利息の少ない普通預金や通常貯金は、相続日の残高がそのまま課税額(相続税評価額)になります。ただし、定期預金や定期郵便貯金など、普通預金よりも利率と貯蓄性が高いものは、相続日時点で解約した場合の利息(解約利率による既経過利子)を加えて評価しなければなりません。計算した利息から20%の源泉所得税分を差し引いた金額を、預金残高に加えた金額が定期預金の評価額となります。

金融機関は、相続開始を知った時点で口座を凍結し、預貯金の口座取引を停止します。金融機関から残高証明書の発行を受け、預貯金の金額を確認して遺産に計上します。遺産相続が確定するまで死後数ヵ月間、凍結は続きます。預貯金が引き出せなくなると葬儀費用や当面の生活費にも困るという切迫状況の場合、金融機関に申し出ると通常150万円を限度に引き出すことができます。手続きは遺族の代表が行い、故人の除籍謄本と実印、法定相続人(全員)の戸籍謄本と印鑑証明、預金通帳と届出印などを必要とします。(174)

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