日本の相続税89-相続 遺言による指定分割

<日本の相続(89)-遺言による指定分割>

  • 夫婦の間に子供がいない場合

義理の父母の法定相続分(3分の1)や兄弟姉妹の法定相続分(4分の1)を支払うために、生存配偶者(妻)が住んでいる家を処分したり、家業を廃業しなければならない事態が起こり得ます。遺言で妻の立場を擁護する遺産分割方法を指定しておけば、この問題を解決できます(民法908条)。

子供がなく父母もいなければ、法定相続では夫の財産は妻が4分の3、夫の兄弟姉妹が4分の1の割合で分けることになります。兄弟姉妹は遺留分がなく遺産を請求することができないため、遺言により妻に全遺産を相続させることができます。(民法1028条)。

  • 特別に多くの財産を与えたい子がいる場合

障害や独身、離婚などで、その将来が心配な子がいる場合、または、特に世話になっている親孝行の

子がいる場合、遺言でその子に有利な財産分割をすることができます(民法902条)。

  • 特別に財産を与えたくない子がいる場合

相続人の中に放蕩者あるいは行方不明者がいる場合、被相続人が死亡すると、これらの者も相続人に数えられます。従って、いつまで経っても遺産分割の協議もできず、また急に現われて自分の相続分を主張してくることもあります。このようなことに備えて、遺言で相続廃除や相続分の指定をしておくことが勧められます(民法893条)。(194)

日本の相続税88-相続 遺言の目的

<日本の相続(88)-遺言の目的>

遺言は、決して特別なものではなく、財産や相続税の金額に関わらず、また、トラブルのあるなしに関わらず、誰でも残しておくことが勧められます。自分の置かれた家族関係や状況を的確に把握して、それにふさわしい形で財産を継承させるように遺言しておくことが、遺産争いを予防し、後に残された者が困らないために必要です。

複数の相続人に法定相続とは異なる分け方をしたい人や相続人以外の第三者に財産を与えたい人などは、遺言によって目的を達成できます。遺言が特に必要となるのは、次のケースです。

  • 夫婦の間に子がなく、配偶者と親か兄弟が相続人となる。
  • 複数の子がいる。先妻の子と後妻の子がいる。
  • 特別に多くの財産を与えたい子がいる。
  • 相続権のない孫や兄弟に遺産を与えたい。
  • 子の嫁に財産を与えたい。
  • 内縁の妻や認知したい子がいる。
  • 同族会社や個人事業者で、後継者を指定しておきたい。
  • 生前世話になった第三者に遺産を分け与えたい。
  • 遺産を公益事業に役立たせたい。

いずれもトラブルが予想されるか、あるいは遺言がなければ実現しないことがらです。(193)

日本の相続税87-相続 遺言がないとき

<日本の相続(87)-遺言がないとき>

遺言がないときは、民法の定めに従い、相続人の間で法定相続の割合による画一的な取り扱いで遺産を分割します。

例えば、子および配偶者が相続人であるときは、相続分はそれぞれ2分の1です(民法900条)。抽象的に相続分の割合が定められているため、遺産の具体的な帰属は、相続人全員で遺産分割の協議(協議分割)をして決める必要があります。誰でも少しでも余分に、少しでも良いものを取りたいのが人情なので、自主的に協議をまとめるのは必ずしも容易ではありません。協議がまとまらない場合には、家庭裁判所での調停または審判(裁判分割)によって解決しますが、争いが深刻化して解決が困難になる事例が後を絶ちません。例えば、妻には自宅と□万円、長男にはマンションと○万円、長女には別の土地と◇万円といったように、具体的に遺言で決めておけば争いを未然に防ぐことができます。

法定相続の規定は、比較的一般的な家族関係を想定して設けられているため、それをそれぞれの具体的な家族関係に当てはめると、相続人の間の実質的な公平が図られない場合も生じます。例えば、ずっと家業を助け、遺言者と苦労と困難を共にしてきた子と、あまり家に寄りつかない子に、それなりの差を設けないとかえって不公平になります。(192)

日本の相続税86-相続 遺言とは

<日本の相続(86)-遺言とは>

遺言とは、国語辞書によると「死を覚悟した人が死後の処理について身寄りの者などに言い残すこと」であり、従って一般常識上の言葉の意味は、「死後の実現希望事項を表明すること」です。財産の処分だけでなく、「皆仲良く」とか、「葬式不要」というのも遺言ということになります。法律上の遺言は、「遺言者が行う相手方のない単独の意思表示で、その死亡によって効力が生じるもの」です。なお、遺言は、「ゆいごん」と言ったり、「いごん」と言ったりしますが、同じものです。

遺言とは、生前における人の最後の意思を、死後、法律的に保護し実現を図る制度で、法的に有効な遺言書がある場合は、相続人はそれに従わなければなりません。遺産相続において、法定相続が優先し、遺言は補足的なものであると考えるのは正しくありません。むしろ逆で、遺言相続が第一にきます。そしてそれがないときは、被相続人の意思がわからないため、やむを得ず法定相続で財産を分配するのです。

自分で築き、守ってきた財産を、生前も死後も、当然本人の自由に処分してもいいはずです。遺言は、大切な財産を最も有効かつ有意義に活用するために遺言者が行う意思表示です。(191)

日本の相続税85-相続 特別縁故者の財産分与

<日本の相続(85-)特別縁故者の財産分与>

 配偶者や子、親、兄弟姉妹などの法定相続人がいないまま死亡した人の遺産は、最終的に国庫に帰属します。(民法959条) しかし、故人と生計を同じくしていた者や療養看護に努めた者、その他特別の縁故のあった者に遺産を引き継がせることが、故人に対するその人の貢献に報いることであり、故人の気持ちにも反しないと認められる場合は、その人へ遺産の全部または一部の分与を認める制度があります。

それはまず、国によって任命された相続財産管理人が相続人の有無を捜索確認し、故人の債務の弁済など、遺産に関する必要な処分をすべて済ませます。その後、家庭裁判所が、遺産分与の申立人に対し申し立ての理由を具体的証拠などによって厳しく審理した上で、特別縁故者として認定の審判が下れば、遺産が分与されます。特別縁故者の財産分与の申立ては、相続人捜索の公告期間の満了後3ヵ月以内に申請しなければ無効になります。家庭裁判所の調査官の面接その他の調査を経て、家庭裁判所から特別縁故者であることが認められなければなりません。(190)

日本の相続税84-相続 養子縁組によって生じる問題

<日本の相続(84)-養子縁組によって生じる問題>

 家業を営んでいる夫婦に、娘が一人だけいました。跡継ぎになる息子がいなかったため、一人娘と結婚した婿を養子にして家業を継いでもらうことにしました。養親子ですから安泰と思っていました。ところが突然、養父が亡くなり相続が発生しました。

相続人は、妻(母)と娘、そして婿養子です。特に問題もなく法定割合(養母50%、娘25%、婿養子25%)で財産を分け合いました。しかし、その直後、今度は娘が亡くなりました。娘の遺産(25%)は、子供がいないため配偶者である婿養子が全額受け取りました。婿養子の財産の持分は50%(25%+25%=50%)となりました。

しばらくして、婿養子も亡くなりました。ここで問題になるのが、婿養子の遺産は、誰が相続するかということです。婿養子の配偶者は死亡しており、子供もいません。すると相続するのは親になります。婿養子には実父母と養母がいます。つまり、相続人は、実父母と養母ということになります。(189)

日本の相続税83-相続 後妻の連れ子

<日本の相続(83)-後妻の連れ子>

 母親が子供を連れて再婚して、再婚相手と長年本当の親子のように接してきたとしても、養子縁組をしていなければ、その子と再婚相手の間には法的な関係はありません。親同士が結婚して配偶者の関係になっても、連れ子との間には血縁関係がなく、養子縁組がない限りは親子ではなく相続権もありません。

連れ子に相続権を生じさせたいと望むなら、後妻の再婚相手と連れ子との間で生前に養子縁組をして、血族関係を作っておくべきです。同様に、先妻の子と後妻との間に養子縁組をしない限り、血族関係は生まれません。従って、後妻が亡くなっても、父の遺産の1/2を引き継いだ後妻の財産の相続権は先妻の子にはなく、連れ子だけが取得することになります。

養子は実子と同じ第一順位の相続人となります。相続分は実子、養子の区別なく均等割りです。ただし、認められる養子の人数には制限があり、実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人です。養父との養子縁組後、実父が生存していれば実父との法律上の親子関係は存続したままであるため、養父との間の相続権を得ると同時に、実父との間の相続権も存続します。(188)

日本の相続税82-相続 婿養子

<日本の相続(82)-婿養子>

一人娘の家に婿(むこ)入りして家業を手伝い、妻の両親の面倒も見ている場合があります。同居していると元からの家族のように感じてしまいますが、婿は相続人の配偶者という関係に過ぎません。将来は家業を継ぐつもりでも、養子縁組の届出をしていなければ、法律上の養親子の関係は成立せず、義父の財産を相続する権利もありません。嫁の場合も同じです。

養子縁組の届出を済ませておけば、養親子の関係を解消しない限り相続権は失われません。養子縁組をしない場合でも、家業を手伝ってもらっていた、老後の世話をしてもらったなどといったことがあり、その気持ちに報いようという意思があるのならば、遺言で遺贈(遺言による財産の贈与)の手続を執っておくべきでしょう。

養子縁組による法律上の養親子ではなく、義父の死後相続人がいる場合、養親の扶養や援助に要した費用を立替金として相続人に請求することが可能です。相続人がいない場合は、特別の縁故関係者として遺産の分配を請求することもできます。

養子は、実親との法律上の親子関係を存続したまま養親との親子関係も築くため、実父母に対する相続権があり、二重の親子関係が保たれます。(187)

日本の相続税81-相続 養子縁組の手続

<日本の相続(81)-養子縁組の手続>

 法律上の摘出親子関係を新たに創り出す具体的な手続として、養子縁組届の提出があります。

届出地: 養父母または養子の本籍地または所在地の市町村役場

届出人: 養父母および養子(養子が15歳未満のときは法定代理人)

届出用紙: 所定の届出書(養子縁組届) 1通

添付書類: 本籍地以外で届け出るときは、届出人の戸籍謄本1通。成人者の証人2人が必要(署名押印)

その他必要なもの: 未成年者を養子にするときは、家庭裁判所の許可書(ただし、養父母の直系卑族を養子とする場合は許可不要)。印鑑(養子、養父、養母)。届出人の本人確認ができる身分証明書(運転免許書、パスポート、住民基本台帳)

養子は、原則、養親の氏(姓)を名乗って、養親の戸籍に入ります。養親が筆頭者でも配偶者でもない場合、養親の新しい戸籍を作ります。養子が既婚である場合、養子夫婦の新しい戸籍を作ります。養子が同籍していない実親

の配偶者を養親とする場合、養子は養親の戸籍に入籍します。既婚者が縁組をする場合、配偶者の同意が必要です。既婚者が未成年者を養子とするには、配偶者と共にしなければなりません。(186)

日本の相続税80-相続 養子縁組の要件

<日本の相続(80)-養子縁組の要件>

故人の財産を継承する法定相続人は、配偶者と血族に限られます。配偶者とは、婚姻届を提出した法律上の正式な夫または妻のことです。血族とは、血統の続いた親族のことです。血族には、血縁関係のある自然血族と、血縁がある者と同一視される法定血族とがあります。自然血族は、実際に血のつながりのある子や孫、父母、祖父母、兄弟姉妹のことです。法定血族は、親子関係にない者が養子縁組という行為によって実際の親子と同じ関係になった養親子のことです。(民法727条)養子縁組後は、養父母と養子の間に真正の相続関係が成立します。

子供の中には、実子と正式に法律上の縁組をした養子が含まれます。養子縁組の要件は、民法に規定されています。まず、当事者間に縁組をする意思の合致があることです。親となる養親は成年に達している必要があります。養子となる者の年齢制限はないため、未成年者でも成人者でもかまいません。ただし、養子は養親よりも年下でなければいけないとされています。また、たとえ年下であっても養親となる者の叔父や叔母などの尊属を養子にすることは禁止されています。尊属以外の親族であれば養子にすることが認められます。例えば、兄が弟を養子にすることもできるのです。(185)

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