相続欠格と相続廃除

人の死亡によってその相続人になれる地位にいる者のことを推定相続人といいます。推定相続人ならば誰でも相続人になれるわけではありません。日本の民法は、相続人の地位が剥奪(はくだつ)される二つの場合を規定しています。一つが「相続欠格」であり、他の一つが「相続廃除」です。

相続欠格:一定の重大な非行があった場合、相続人としての資格を失います。これを「相続欠格」といいます。被相続人やほかの相続人の生命を侵害して相続財産を独占しようとした場合のほか、詐欺や脅迫によって被相続人の遺言に干渉し、有利に相続しようとする行為も欠格の原因となります。相続権のある者に欠格原因があれば、それだけで相続資格が無くなるため、特に裁判所の決定などの手続きを必要としません。

 相続廃除:相続欠格ほどではないが、相続人となるべき者に一定の非行があった時は、被相続人の意思により、家庭裁判所へ申し立てをして、相続権を奪う制度があります。これを「相続廃除」といいます。「相続廃除」の原因は次の3つです。

  • 被相続人に対して虐待(ぎゃくたい)したとき。
  • 被相続人に対して重大な侮辱(ぶじょく)を与えたとき。
  • そのほか著しい非行があったとき。

相続人となる予定の者のうち、遺留分(最低限度の相続割合)がある配偶者、子、父母が相続排除の対象となります。兄弟姉妹は、慰留分がなく、相続排除の対象となりません。(587)

法定相続分

人が亡くなった時、故人の遺言があれば、遺産はその指定に従って分割されます。遺言が無ければ、遺族の誰がいくらの財産を相続するかが問題となります。遺言がない場合のために、日本では法律によって遺産分割の仕方が定められています。それぞれの相続人の遺産に対する権利の割合のことを「相続分」と呼びます。日本の民法で定められた割合のことを「法定相続分」と呼びます。遺されたのが配偶者だけで子も親も兄弟もいない場合や、子供一人だけの場合は、一人の相続人が全財産を相続するため、相続分は問題になりません。相続分が問題となるのは相続人が二人以上いる場合です。

遺言なしに人が亡くなった場合、故人(被相続人)の意思を法律によって推定して相続分を定めた「法定相続分」に従って相続することとされています。一般に相続分という場合、「法定相続分」を指しています。その割合は、誰が相続人であるかによって異なります。配偶者と子が相続人である場合の相続分は、配偶者が2分の1、子が2分の1です。子が2人以上の場合は2分の1を均等に分けます。配偶者と父母・祖父母の場合、相続分は配偶者が3分の2、父母・祖父母が3分の1です。配偶者と兄弟姉妹の場合、相続分は配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1です。(586)

遺留分の減殺請求

遺留分を侵害する遺言が実行された場合、不利益を被る相続人は遺贈を受けた相手方に対して財産の取り戻しを請求することにより救済されます。これを遺留分の「減殺請求」(げんさいせいきゅう)といいます。

相続開始および遺贈があったことを知った日から一年以内に、遺留分の減殺請求を行わなければ、時効によって請求権が消滅します。相続から10年経つと、遺留分の侵害があったことを知らなくても時効により消滅します。請求権を行使するためには、訴えを起こすといった面倒な手続はいらず、侵された本人が相手方に侵害された財産の取り戻し(減殺)請求をするという意思表示の通知をすれば法律上の効力が生じます。意思表示の時期や内容を明確にしておくため、「内容証明郵便」で行います。相手方が請求に任意に応じない場合は、家庭裁判所に調停の申し立てをする必要があります。

遺贈と贈与があった時は、遺贈を先に減殺します。それでも遺留分に満たない場合に贈与を減殺します。遺贈が複数ある場合は、価格の割合に応じて減殺しますが、遺言で順序が定められていればそれに従います。贈与が複数ある時は、契約時点を基準にして後の贈与から減殺します。(585)

遺留分の割合

遺言は、財産を残す人の自由な意思で財産を処分する方法です。自由に処分できるということは、相続人以外の人にも財産を与えることができるということでもあります。もしも財産のすべてを家族以外の誰か他人に与えるという遺言が残されたとすると、遺された家族にとってはあまりに酷ということになります。そこで日本の民法は、遺留分制度によって一定基準を相続財産から遺族に残すようにと定めています。遺留分を受けられる相続人は、配偶者、直系卑属(子や孫)、直系尊属(父母)に限定されています。

相続人に保証されている遺留分の割合は、配偶者および子とその代襲者は、相続財産の2分の1、父母(直系尊属)は3分の1と定められています。この割合は法定相続人全体に残される分を示しているので、相続人が複数いる場合は、この遺留分をさらにそれぞれの割合で分けることになります。

相続人が配偶者だけのときは、遺留分は2分の1です。配偶者と子がいるときは2分の1を分け、配偶者4分の1、子4分の1となり、子が複数のときは4分の1を頭割りにします。相続人が子だけのときは、遺留分は2分の1(複数のときは頭割り)です。

相続人が配偶者と直系尊属(父母)のとき、遺留分は配偶者3分の1、直系尊属6分の1です。直系尊属(父母)だけのときは3分の1(複数のときは頭割り)です。相続人が配偶者と兄弟姉妹のときは、慰留分は配偶者2分の1、兄弟姉妹は取り分ゼロとなります。(584)

 

 

 

遺留分制度

遺留分制度は、相続人に最低限相続を保証する制度です。故人の最後の意思を尊重して、遺言通りに財産を振り分けるのは望ましいことです。遺言による指定は、法律で定めた相続基準に優先しますが、例外として、一定範囲の相続人には最低限度の相続分を法律で保障し、それが侵害されている場合には取り戻しの請求ができることになっています。例えば遺族(相続人)には歓迎できない他人へ、財産のすべてを渡すという遺言が残された場合、妻子は自宅を明け渡してすべての財産をその他人(受遺者)に与えなければならず、相続権があるのに遺産を相続できないという結果を招きます。故人の自由な意思を無制限に認めると、非人道的とさえ言えることが世の中にまかり通ってしまいます。

そこで日本の民法は、遺族の生活保証や財産形成への貢献を考慮して、財産が自由に処分されることによって遺族の生活が脅かされることがないよう、相続権の最低限の保護を定めた「遺留分制度」を設けています。遺留分は、故人が自分の意思で処分できない財産の割合であり、故人の財産処分の自由と相続人の保護の調和を図り、一定割合の相続財産を相続人に留保することにより、遺言に対してある程度の制限を加える効果があります。遺留分がある相続人は、侵害された遺留分について減殺請求という形で返還を求めることができます。(583)

 

代襲相続人

故人(被相続人)の子が相続開始以前に既に死亡している場合は、死亡した子の子、つまり被相続人の孫に相続権が移ります。この場合の孫を「代襲相続人」、死亡した子を「被代襲者」といいます。身代わりの相続人である孫は、死亡した子と同じ第一順位の血族相続人とみなされます。このように代襲相続人となる孫がいるときは、第二順位の父母(直系尊属)と第三順位の兄弟姉妹に相続権はなく、相続人になることはできません。

被相続人に子がなく、父母も既に死亡している場合は、兄弟(姉妹)が相続人になりますが、その兄弟が既に死亡しているケースの場合にも代襲相続が生じます。兄弟の子であるおい(またはめい)が兄弟に代わって相続人になります。この場合、おいが「代襲相続人」であり、死亡した兄弟が「被代襲者」となります。「代襲相続人」となるべきおいも既に死亡していた場合は、再代襲は認められず、おいの子は相続人になりません。子の代襲相続人になるべき孫が死亡していた時は、ひ孫がというように再代襲が繰り返し認められますが、兄弟姉妹の代襲は、おいかめいの段階で打ち切られます。

なお、代襲相続は、相続人となるはずであった者の死亡のほか、「相続の欠格」や「相続の廃除」によって相続権を失った場合にも起こります。(582)

相続の優先順位

日本では法定相続人として配偶者や子のほかに、父母、祖父母、兄弟姉妹も含まれています。相続権が認められていても法定相続人なら誰でも遺産の分与を受けられるわけではありません。それは法律によって、第1順位は子、第2順位は父母・祖父母、第3順位は兄弟姉妹という相続の優先順位が決められていて、上の順位の者がいるときは、下の順位の血族には相続権がないからです。

被相続人(故人)と夫婦関係にあった配偶者は別格で、優先順位に関係なく、常に無条件で相続人となります。婚姻届を出している法律上の正式な夫婦に限られ、内縁関係は認められません。逆にいえば、たとえ長年別居していても離婚届を出していなければ、その人は配偶者として別格の遺産相続人になります。

相続順位が配偶者と同様に高いのが、血族の中の第1順位にいる子(直系卑属)です。血族の中に順位の高い人がいる場合、その人たちだけが相続人になって、低い順位の人には相続権がなくなります。従って、故人に子がいる場合は、その子たちが1位となるため、親や兄弟がいても、第2順位、第3順位の彼らには遺産の相続はできないことになります。(581)

法定相続人

故人(被相続人)が遺した財産を引き継ぐ遺族のことを日本で相続人と呼びます。誰でも相続人になれるわけではなく、遺言書に被相続人(故人)による指定がある場合を除いて、日本の民法の規準に従うことになっています。これを「法定相続人」といいます。

法定相続人は、被相続人の配偶者と血族に限られています。この場合の配偶者とは、婚姻届を出した法律上の正式な妻または夫のことを指し、いわゆる内縁関係の夫婦の場合は相続人になることはできません。血族についても制限があり、その範囲は被相続人の子や孫(直系卑属)と父母、祖父母(直系尊属)、そして兄弟姉妹に限定されています。

子の中には、正式に法律上の縁組をした養子も含まれています。また、法律上の正式な夫婦でなくても、被相続人との間に生まれた子供(非摘出子)は、父親が「認知」して戸籍上の届け出をしてあれば相続人になることができます。以前は、相続分は実子(摘出子)の2分の1だけといった制限が加えられていましたが、現在は民法改正により、平等扱いになりました。被相続人の兄弟姉妹は、たとえ異母・異父であっても相続権が認められます。         (580)

 

相続放棄

日本で親が亡くなった場合、一定範囲の親族(相続人)が親の遺した財産を相続によって引き継ぎます。相続財産には、預貯金、有価証券、不動産などプラスの財産のほかに、借入金、未納税金、連帯保証債務といったマイナスの財産も含まれます。財産よりも債務の方が多い場合、相続人が借金を抱えることになります。相続人が相続財産を受け入れるかどうか自由に選択することが認められていています。債務から逃れる道として、「相続放棄」あるいは「限定承認」と呼ばれる選択肢が与えられます。

相続放棄とは、被相続人(親)の有する一切の権利・義務が自分のものとなることを拒否することで、相続そのものがなかったことになります。限定承認とは、プラスの財産の範囲内に限定して債務を負担することをいいます。相続放棄または限定承認を選択するには、相続開始から3ヵ月以内に日本の家庭裁判所へ届け出なければなりません。この3ヵ月の期間を過ぎると、「単純承認」したものとして扱われます。すなわち、財産と債務のすべてを無条件、無制限に承認して引き継いだこととなり、財産よりも債務の方が多い場合、相続人が自分の財産でそれらを返済しなければなりません。(579)

日本の相続税65-相続 非上場株式の評価

<日本の相続(65)-非上場株式の評価>

上場株式、気配相場株式以外の株式が、取引相場のない非上場株式です。中小同族会社の株式のほとんどがこれに該当します。非上場株式は、株主の立場や地位で評価を分け、さらに会社の規模によっても評価を変わります。

まず、株式の所有者の立場が支配株主一族であるか零細株主であるかによって株式評価が異なります。実質的に会社を支配している大株主の場合は、会社の資産を処分できる権限があり、従って株式そのものに極めて高い価値があると言えます。それに対して、零細株主の場合は、会社に利益があってもわずかな配当を受ける権利しかなく、従って株式の値打ちがそれほどありません。

次に、会社規模の実態に即して株式が評価されます。会社の規模を、従業員数、総資産額、取引金額(売上高)の3種類の区分基準に基づいて、大、中の大、中の中、中の小、小の5段階に区分し、それぞれの区分に属する会社に次のような異なる評価方法のいずれかが適用されます。(170)

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