見なし相続財産

日本の民法上は相続に当たらないものの、実質的には相続によって受け取ったものに等しいと考えられる「見なし相続財産」にも相続税が課税されます。例えば生命保険金は、故人の財産からではなく保険会社から支払われます。死亡を直接の原因として相続人の財産が増えたという点では、相続によって財産を取得したことと実質的には変わりありません。このように実質的に見て経済的効果が相続財産と同じものは、相続による財産と同じに見なされます。相続人以外の人が見なし財産を受け取った場合は、遺贈されたことと同等ということになり、相続税が課されます。

保険料を負担してきた被相続人の死亡によって支払われた生命保険金、故人が受け取るべきであった手当金で死亡後に遺族に支払われる死亡退職金、支給を受けていた被相続人の死亡後遺族に継続支給される退職年金が見なし相続財産の例です。生命保険金、死亡退職金とも、法定相続人一人につき500万円までの非課税控除の適用があります。

相続開始前3年以内に、相続人が受け取った贈与も見なし相続財産とされ、相続税が課されます。贈与を受けた際に既に支払った贈与税は、相続税から控除されて二重課税が排除されます。(655)

養子縁組によって生じる問題

日本で家業を営んでいる夫婦の家族は、娘一人だけです。家業の跡継ぎになる息子がいなかったため、一人娘と結婚した婿を養子にして家業を継いでもらうことにしました。婿養子と娘の間には子が出来ませんでした。養夫婦と婿とは養親子ですから安泰と思っていたところ、突然養父が亡くなり相続が発生しました。相続人は、妻(母)と娘、そして婿養子の3人です。特に問題もなく法定割合(養母50%、娘25%、婿養子25%)で財産を分け合い、家業は継続されました。しかしその直後、今度は娘が亡くなりました。娘の遺産(25%分)は、娘の配偶者であり、家業を受け継ぐ婿養子が全額受け取りました。婿養子の財産の持分は50%(25%+25%=50%)となりました。

しばらくして、今度は婿養子も亡くなりました。ここで問題になるのが、婿養子の遺産は、誰が相続するかということです。婿養子の配偶者(娘)は死亡しており、子供もいません。すると相続するのは親になります。婿養子には実父母と養母がいます。つまり、相続人は、実父母(33.3%)と養母(16.7 %)ということになります。

養親は家業や財産を守ってもらえるようにするため、娘の夫を養子にしたのに、他人の家系に財産の一部が渡ってしまいます。養子縁組をした場合、養親と実親両方の相続権を持つことになるからです。養子縁組では、こういった望んでいなかった思いがけないことが起こる可能性もあるので、気をつける必要があります。(597)

遺贈

相続が開始されて、その相続財産が一定金額以上あると相続税がかかってきますが、相続によって財産を得たときだけに相続税がかかるわけではありません。相続のほかに、「遺贈」と「死因贈与」という2つのケースのときにも相続税がかかります。

「遺贈」とは、一定の方式に従った遺言書によって財産を人に譲ることをいいます。遺言者の死亡と同時に一方的に特定人物(受遺者)に財産が与えられます。遺贈の相手に関しては制限がなく、相続人はもちろんのこと、相続権のない親族、血縁関係のない第三者や会社など、誰でも受遺者として指定できます。遺産全体の割合を示して遺贈する「包括遺贈」は、指定された割合で遺産を引き継ぐ権利を持つことになるため、受遺者は立場的に相続人と同等になります。したがって、故人に債務があれば、それを負担しなければなりません。

「何町何番地の土地何平方メートル」というように、財産を特定する「特定遺贈」は、明確な物件が指定されるため、故人の債務を一緒に負担することはありませんし、債務の受け入れを拒否することもできます。遺贈の受遺者には、遺贈を放棄する権利が与えられています。遺贈があったことを知ってから3カ月以内に、包括遺贈は家庭裁判所に、特定遺贈は相続人たちに対して、放棄する意思を示さなくてはなりません。(595)

遺産分割

日本で相続人が複数いる場合、相続開始時点で各相続人の相続分に応じて遺産を共有していることになります。現金、土地、家屋、預貯金から債務まで共有している財産を、それぞれの相続人の所有物として確定する手続きのことを「遺産分割」といいます。遺産分割の期限の定めはなく、相続税が生じないのであれば遺産分割を確定させなくても問題はありません。

「配偶者は法定相続分まで相続しても相続税はかからない」という税額軽減の特例を受けるためには、原則として相続税の申告期限までに遺産分割しなければなりません。相続財産を処分する場合や担保に入れる場合も、遺産分割が必要です。各相続人が何を、いくら、どのようにして相続するかを相続するかをきめる話し合いを、遺産分割協議といいます。

遺産分割を行うには相続財産を正確に把握し、それぞれの財産の価値を算定しなければなりません。遺言があれば、指定された相続分にしたがって分割(指定分割)し、遺言がなければ法定相続分にしたがった割合で分割するのが原則です。相続人全員の同意があれば、協議によって分割することもできます(協議分割)。相続人の間で遺産分割協議をしても合意が得られなかった場合は、家庭裁判所の調停または審判にしたがって分割します(調停分割・審判分割)。(594)

婚外子の相続分

法的な婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子のことを摘出子といい、正式婚以外で生まれた婚外子のことを非摘出子といいます。2013年12月5日、日本の民法の一部が改正され、婚外子の相続分が摘出子の相続分と同等になりました。法定相続分に関する民法条項のうち、婚外子の相続分を摘出子の相続分の2分の1としていた従来の民法規定(第900条第4号)は、憲法第14条第1項違反であると判定されました。生まれてきた婚外子には何の責任もないのに、摘出子との間に相続分において差別が設けられているのは憲法の平等の原則に反するというのがその根拠です。

婚外子が相続を受けるには、父親である被相続人によって生前に認知されているか、被相続人の死後、認知の請求を家庭裁判所に対して行い、認知(強制認知)されることが必要です。なお、死後認知の請求は、父親が死亡してから3年以内に行わなければなりません。被相続人の死後の認知の場合、遺産分割が既に終わっていれば、その相続分に相当する価額を各相続人に請求することができますが、遺産分割のやり直しを求めることはできません。

妻に連れ子があり、夫が死亡した場合には、その連れ子には相続権がないのは当然ですが、養子縁組をしていれば相続権があり、その相続分は嫡出子と同様です。(593)

相続の限定承認

土地や建物などのプラス財産と借金などのマイナス財産を、相続財産としてすべて一手に引き受けるという一般的な相続方式のことを単純承認といいます。単純承認は、裁判所への手続きを必要とせずに相続を実行できます。借入金などの負債が多いため、あるいは相続トラブルを避けるため相続権を放棄したい、またはプラス財産の限度でしかマイナス財産の相続はしたくないなどの場合には手続きが必要です。相続財産の中から負債を支払って、それでも財産が残っていれば相続するという、留保付きの相続方式のことを相続の「限定承認」(民法922条)といいます。限定承認を行うには、相続があったことを知った日から3カ月以内の熟慮期間に、管轄の裁判所への申請手続きと、法定相続人全員の合意が必要になります。

被相続人が死亡した直後は、葬儀や初七日であわただしく、一般に相続の話が出てくるのは四十九日過ぎという例が多いようです。それから相続財産の調査にかかり、プラスの財産とマイナスの財産がそれぞれいくらになるか集計して把握する必要があります。その結果、単純承認をするか、相続放棄あるいは限定承認をするかを決めなければなりません。財産が多く、また権利関係が複雑であったりすると、3カ月の期間はすぐに過ぎてしまいます。そのため、この3カ月の間に調査が終わりそうにもない場合には、家庭裁判所に期間の延長を求めることができます。(592)

相続の単純承認

相続人が故人のプラスの財産とマイナスの財産のすべてを無条件、無制限に承認して継承することを、日本の民法で「相続の単純承認」といいます。自分が相続人となったことを知った時から3カ月以内に「相続放棄」あるいは「限定承認」のいずれかの手続きを家庭裁判所に対して申述しなかった場合には、自動的に相続の「単純承認」をしたことになります。相続財産の中に借金や連帯保証債務がある場合は、この3カ月の期限を過ぎると、相続の放棄や限定承認ができなくなるため、要注意です。プラスの相続財産が多いと判断してしまい、3カ月以内の手続きを怠って「単純承認」をしてしまった後で、マイナスの財産があることが判明しても解決方法はないため、相続方法を決める前段階の財産調査は、きちんと行うことが大切です。

 

相続が発生した日以降、相続人が次の事項を行ってしまうと、「単純承認」をしたとみなされてしまう場合がありますので、ご注意ください。

  • 相続人が、相続財産の全部または一部を処分してしまった場合。
  • 相続人が限定承認および相続放棄をしたとしても、財産の全部または一部を隠匿したり、悪意である財産を財産目録に記載しなかった場合。                                                                                                                      (591)

相続の承認と放棄  

 

遺産相続というと、プラスの財産(資産)だけが相続人に継承されるように思えますが、実は、それだけではなく、マイナスの財産(負債)も相続人に継承されることになります。相続という避けられない事情で負債まで背負ってしまうのでは、相続人に酷です。そこで、相続人には、遺産相続を受け入れるか、受け入れないかの選択権が認められています。相続するという意思表示を「相続の承認」といい、相続しないという意思表示を「相続放棄」といいます。相続人にはこの相続を承認するか放棄するかという選択権が認められているのです。

相続の承認には、「単純承認」と「限限定認」があります。単純承認とは、負債を含めて遺産相続の全部を受け入れるという意思表示であり、被相続人の一切の権利義務を「無限に」継承することになるため、プラスの財産(資産)だけでなく、マイナスの財産(負債)もすべてそのまま受け継ぎます。限定承認とは、相続財産の中から負債を支払って、それでも財産が残っていれば相続するという留保付きの相続の承認のことであり、財産の範囲内に限定して債務を負担します。

限定承認または相続放棄を選択するには、相続開始から3ヵ月以内に家庭裁判所へ届け出なければなりません。この3ヵ月の期間を過ぎると単純承認したものとして扱われます。(590)

特別受益者の相続分

故人の財産形成に貢献した人に相続加算される「寄与分制度」とは逆に、生前に故人から特別に受け取った財産の利益分を相続から減算調整することを「特別受益制度」といいます。例えば、父親の生前、長男は住宅購入資金の援助を受けたとします。父親の死後、相続人である長男と次男が残った財産を法定相続分通りに遺産分配すると不公平が生じます。特定の子どもだけ、独立開業の際資金を出してもらった、結婚の際持参金や支度金をだしてもらった、留学費用をだしてもらったなどの場合も、相続の前渡しを受けた特別受益者と見なされます。

このような不公平をできるだけ少なくするように定められたのが特別受益制度であり、故人から特別な財産分与(生前贈与)による利益を受けた人のことを「特別受益者」といいます。財産的利益を遺産額に加算した金額を法定相続分で配分した後、相続分からその財産的利益を差し引いて、特別受益者の相続分とします。

財産的利益(特別受益)がどの程度のものか、どんな場合に相当するのか、寄与分制度と同様、はっきりした基準はありません。あくまでも、相続人同士の話し合いで決めることです。話し合いで決着がつかないときは、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。(589)

寄与分制度

同じ順位の相続人が遺産を均等に相続することが必ずしも妥当とは言えないケースがあります。相続人の中に、被相続人の財産の増加や維持に特別の寄与をした人がある場合は、遺産の分割にあたり、寄与分として別枠で遺産を相続できるようにするのが「寄与分制度」です。

例えば、長男は高校卒業後すぐに父親の後を継いで家業に従事し、それから30年間勤勉に働いてきました。一方次男は、大学を卒業して都会で結婚し、会社勤めをしています。年に一度手土産を持って孫の顔を見せに帰るだけです。父親が亡くなり、遺された財産は2億円で、その多くが長男の努力によって保全されてきました。父親が財産を遺せたのは、要は長男が一生懸命家業に尽くしたためであり、遺産の名義は父親であっても、その中には相当程度、長男の労働による寄与分も含まれていると見ることができます。長男の寄与分が仮に8000万円とすると、残りの1億2000万円を、母親および長男と次男とで相続分に従って配分することになります。

寄与分の金額は原則、相続人全員で話し合う遺産分割協議で決めることになっています。協議がまとまらない場合や、協議ができない場合は、家庭裁判所の審判で決めてもらうことになります。家庭裁判所では、寄与したと主張する者の請求に基づいて、寄与の時期、方法および程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して寄与分を決めます。(588)

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